4-3
モンスタークラブが解散してから、マユラとクリスファーは奥の部屋に案内された。
そこではエギュトとハデスが待っている。
ハデスは隠しもしない軽蔑の眼差しをクリスファーに向けている。対するクリスファーは無言で、エギュトも黙ったままだ。
「どういうつもりだ? 裏切り者」
ハデスの言葉に、マユラはむっとして反論する。
「いい加減にしてくださいよ。クリスファーさんは確かに私たちを騙していましたが、裏切ってはいません。きちんと、モンスターの助けになるように考えてくれています。嘘つきの罵りを受けても、裏切り者と言われる筋合いはありません」
冷たく言うと、ハデスは顔をしかめた。
「おまえには関係ないだろ」
「そうですね。でも、見苦しかったものですから。誰が敵で誰が味方か、考えてみればわかるんじゃないですか」
冷めた目を向けるマユラに、ハデスはむっと唇をまげて毒づく。
「小娘が偉そうに」
そう言われて黙っているマユラではない。さらに反論を重ねようと口を開きかけるが、クリスファーに制された。
彼は真っ直ぐにハデスの視線を受け止める。
「リリィが心配していた」
ハデスがはっとして顔をそらす。それからエギュトと別れ、渋るハデスを連れてリリィの屋敷へと戻る。リリィは屋敷の入り口を入ったところで待っていてくれた。
傍らにはライの姿もある。二人はマユラたちが返ってきたのを見て、安心したように駆け寄ってくる。リリィは上目遣いで窺うようにして、ハデスに問いかける。
「ハデスさん、あの……本当に、襲撃なんて恐ろしいことをするのですか?」
さすがにばつの悪そうな顔をしながら、それでもハデスはそっけなく頷く。
「三日後にな」
「ハデスにーちゃ、クリスにーちゃと仲直りした?」
今度はライに質問されて、ハデスは弱りきった顔になる。それでもクリスファーと和解する気はなさそうだ。
わずかに雰囲気が悪くなりかけた時、乱入する声があった。
「リリィ様! 見てくださいこの花の美しさを。庭で――」
花束を抱えて嬉しそうに歩いてきた男は、目を丸くして足を止めた。
「ライ様?」
思ってもいない名前が出てきて、マユラは男を凝視した。冴えない、どこにでもいるような男だろう。
クリスファーも男とライとを交互に見た。
「ライの知り合いなのか?」
幼子は指をくわえて首をかしげる。
男は感極まったようにライの前に膝をつき、畳み掛けるように喋る。
「よく御無事で。いままで、どこにおられたのですか。私は、ベロニカ様もライ様もお守りする事ができなかったのだと、思っていました。だから自棄になって、助けていただいた吸血鬼紳士の屋敷へ厄介になっていたのです。だけど、ご無事だったんですね」
吸血鬼と言う単語を聞いて、リリィはおっとりと頬に手を当てた。
「まあ、酔っぱらいさん、知っていましたのね」
今は、そんな場合ではない。驚くポイントがずれていると思う。
クリスファーは男へと鋭い視線を投げかけた。
「どういうことなんだ? 君はライと知り合いなのか?」
男は頷いて立ち上がると、マユラたちに向き直る。それから説明を始めた。
「私は、ライ様の母上であるベロニカ様に懇意にしてもらっていました、使用人です。ベロニカ様が兄上の不興を買って逃げる際に、手引きをしたのですが……」
「ベロニカの兄?」
「はい、ブライアンさまです」
その名前を聞いてマユラは表情を引き締めた。クリスファーも、はっとしたように口を閉ざすと、歩きだす。
「病院に行こう。リリィ、ライを任せた」
こんな夜更けに病院に行くのは解せないが、クリスファーの事だから考えがあるのだろう。
「よくわかりませんが、何かわかったんですね」
「ああ。ブライアンはおそらく、とんでもない計画を実行するつもりだ」
「リリィさん、ライ君をお願いしますね」
モンスター・カウンセラーの助手としては、雇い主に付き従うしかないだろう。マユラ自身も、ブライアンとは面識があるし、調べえるのに異論はない。
マユラとクリスファーがとんぼ返りにまた屋敷を出て行く。
リリィは穏やかに、隣に立つグールの青年を見上げた。
「ハデスさん、いつまでここにいるつもりですの?」
ハデスは自分の肩までもない少女を見つめる。
「何が言いたいんだ?」
「わかっていますのに、聞くのですね」
ハデスの瞳が迷うように彷徨ったのは、しばらくの間だけだった。
「……少し、出かけてくる」
そうして彼も、冷たい外へと駆けていく。