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3-4

 マユラたちは、ヴィクトールをそのままにして廊下へ出た。男が嘘をついたとは思えない。だけど、クリスファーがエクソシストというのも、にわかには信じられなかった。彼はモンスタークラブに協力して、自然公園の開発をやめさせようとしてくれているはずだ。

 ちらりと様子を窺って見ると、エギュトもハデスも黙り込んでいた。

「なあ、あの探偵の話は確かなのか?」

 口火を切ったのはハデスだ。否定してほしそうにマユラを見ていたが、マユラにはどうすることもできない。助手とはいえ、マユラはクリスファーの事を何も知らないのだ。

「……明日、クリスファーさんを尾行してみましょう。それではっきりするはずです」

「私もついて行かせてもらう」

「もちろんですよ」

 自分はどういう結果を期待しているのだろうと、マユラはふと思う。クリスファーが潔癖でヴィクトールが嘘をついていたというのが一番だ。だけど、それはあり得ないだろうと、なんとなくわかっていた。あの男は嘘をついていない。嘘つきなのは……。

「もしかして、あいつが裏で俺たちを誘導してきたのか? くだらないまやかしで、俺たちを騙して……」

 ハデスの言葉が、マユラの胸に沁み込む。彼はいつから、何を偽っていたのだろう。あの日、傘を差しだして屈託なく笑っていた彼の笑顔の奥には、何があったのだろう。

(どうだって、いいはずです。私は誰にも期待しないし、他人の事情なんて、どうでもいい。そのはずです)

 だけどマユラは、しばらくするとまた、クリスファーについて堂々巡りの考えをしてしまうのだ。劇場に帰ると、ライが笑顔で迎えてくれた。

「マユねーちゃ、おかえり」

「ただいま帰りました、ライ君」

 くっついてくる幼子を抱き上げて、マユラは小さく微笑んだ。ライは子供らしい無邪気な笑みを浮かべている。嘘偽りないものだ。クリスファーは舞台の近くで資料に目を通しているようだった。マユラは何気なく問いかける。

「クリスファーさん、自然公園の件は順調ですか?」

 こちらを振り向いたクリスファーはいつもと変わらない様子だった。

「まあね。君もハデスと様子を見に行ったんだろう」

「まったく進展している風には、見えませんでしたけどね」

「大丈夫だ。いい感じの、事実が見つかりそうなんだよ」

 そう言って彼は資料をめくる。やはり、クリスファーはモンスタークラブに協力して、自然公園を取り戻そうとしてくれている。

「何も問題ない。期待していてくれ」

 そんな彼が、エクソシストなのだろうか。マユラは心ここにあらずのまま、平坦に呟いた。

「へえ、期待していますね」



 翌日、ライをリリィの家に預けてから、マユラは、劇場の向かいで張り込み中のハデスと合流した。彼の傍にはエギュトの姿もある。

 クリスファーはまだ出かけていないようだ。劇場の前には取り壊し予定の空き家が立てられており、マユラたちはそこに侵入して、二階から劇場を見張っている。

「なあ、本当に、あの探偵の言っていたことは本当なのか?」

 ハデスが出入り口から目を放さないまま呟いた。エギュトがそっけなく答える。

「確かめればわかるだろう」

 マユラも同意の頷きを返した。それっきり無言のまま、気づけば昼の時間になっていた。クリスファーが出てくる様子はない。本当に彼が図書館に向かうのだろうか。探偵への不信が募っていく。

 昼過ぎ、ようやくクリスファーが身支度をして屋敷を出た。マユラ達は慌てて追いかける事にする。すべて、これでわかるはずだ。探偵の言っている事なんて嘘っぱち――そう思いたいが、マユラは心のどこかで逆だと思っていた。

 嘘つきは彼で……それは、自分達に対する最大の裏切りだ。

 クリスファーは、スネール地区に入ると人目を気にするようになった。もしかすると、尾行に感づいているのかもしれない。マユラ達はある程度離れた場所から、クリスファーの様子を窺った。まもなく、彼が入っていったのは大きな紺色の建物――図書館。

「……探偵の男が、言っていた通りだな」

 エギュトの呟きに誰も答えず、三人はそろそろと図書館へ入った。

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