第1章 0:始まり
息が詰まるような埼京線の電車を降りて、改札を抜ける。
165cmで60Kgの自分の体格が大きいとは思わないが、満員電車では窮屈に感じる。
いつもの事だが
「何とかならないかぁ~」
と泣き言がでる。
11月ともなると18時越えると日はとうに沈んでいる。
幼馴染の楓との待ち合わせは18時30分、今ちょうどスマホのバイブが教えた通知が待ち合わせ時間だろう。
スマホを取り出し、一覧から楓を選ぶと通話ボタンを押した。2~3回のコールですぐに出る、少し不機嫌な話し声。
「直樹?遅れるの?」
いかん。おかんむりだ。
待ち合わせの喫茶店代ですむか声色では微妙なラインだ。
「今、赤羽の改札を出たところだ。2Fのデニーズでいいんだよなぁ?」
待ち合わせ場所は覚えているが、時間稼ぎで聞いてみる。足は速足を心がける。
「はやくきなさい!
あと、マリもいるから。
遅れた罰で、紅茶代は直樹持ちよ!
いいわね。」
拒否権は私には無さそうだ。
「OK!」
私の回答が聞こえたタイミングだろう、スマホが切られた。
夕食時とあってデニーズは若干混んでいるようであった。何人か順番待ちで並んでいる。
外の冷え込みと相まって、ファミレスの中は速足できた俺には少し暑かった
店内を見回していると
「遅ーい!」
楓の非難が先手を取る。
白のワンピースで整った顔、160CMで文句のないスタイルで、目だけキツメになると人相が怖いのですが楓さん。
陣取られたテーブルに向かいながら、とりあえず謝る。
「すまん。10分遅れた」
ご機嫌の回復が最優先事項。
テーブルに並ぶ、デザート関係の皿は既に8割がた完食されていた。
「真理ちゃんもこんばんは。今日はバイトないの?」
楓の妹、真理に話を振る。何とかごまかせたかな?
「今日は私、休みなのです。ごちそーになってま~す。」
軽くかえされた。おごりは確定事項か?
「…。ハハハ…、どういたしまして。」
決定事項になってしまった。まぁ見栄は晴れるときにはった方がよい。(泣)
とあきらめるか…。
「じゃあ、おねいちゃん。先かえるね。あまり遅くならいでね。母さんにフォローは入れとく。」
明るく答える真理に、少し赤くなりながら楓が答える。
「…。そんなに遅くならないわよ!でもフォローよろしくね」
照れたように答える楓に、真理がバック持って手を振りながら出口へ向かう。
出ていく真理を目で追いながら楓の向かいの席に座り、バックを隣の席に置く。
「その荷物、例の?」
楓が胡散臭そうな目でバックを見る。
「そ。とりあえずオラクル(神託)は、聞いておいて損はないと思ってね。」
「直樹も信心深いはね~。あんなメール絶対誰かの悪戯よ!」
「俺もそうは思うだけど、前回は言われる通りのナンバーでロトが2等だぜ!」
「200万じゃない。何で1等じゃないのよ!」
「ん…。でも200万だぜ。」
若干声が小さくなる。
「その半分で、メールに書かれたもの買っちゃって、持ち歩いてるんだから。」
ご機嫌斜めなようだ。
「まぁ。祟りは怖いし…。」
「もー。私に何か買ってもいんじゃないの!」
声が大きくなる楓さんにちょっとたじろぐ。
「分かったよ、今度な!」
「でも、送信者が俺で、受信者が俺のメールなんておかしいよなぁ。」
とりあえず話題をずらす事に専念。
「誰かの悪戯じゃないの?心当たりないの?」
「俺は絶対自分あてになんか出してない。9月の試験内容のメールが届いたの7月だぜ。」
「んー。そうよね?未来の事なんかわかないよね~」
「先月のロトなんか言われ通りで当たったからなぁ。」
「それなのよ。ぜったーいありえない。」
「ここまで来ると『メールで常に持ち歩け』と言われる物は、持ち歩こうと思うじゃないか。」
「でも、200万の半分て100万よ。良く買いにいったわね。あなた!」
目が細くなって、人相が悪いですよ。楓さん。声に出して言えないけど…。
「こっちの身にもなってくれよ。このメールに逆らえないよう。」
「ロトまで当たっているから、無視もできないか~」
「んー。あ、コーラフロートお願いします。」
やってきた店員にオーダーを頼むと楓の顔を覗き込む。
「で、相談て何だ。」
楓の相談に乗るのが目的で待ち合わせをしたはずが、話がズレてしまった。
「あ!。ミヤの事なんだけど何か変なのよね。この頃!」
「ミヤって、南ミヤの事?
どうかした?」
「なんかボーとしちゃって、何聞いても上の空で
私に、最近予知夢見る?とか聞いてくるの」
「予知夢?小さいころに楓が見たっていう話?」
「うん。最近は見ないでけど…」
南ミヤは、野性味あふれる肉食系の女の子って感じの活発な子だ。
同じ大学の学部で、楓とは仲がいい。
俺とは数回話しただけなので、それとなく相槌を打つしかなかった。
そんなにオカルト染みた子でも、中二病患者でもなかった気がする。
小一時間、聞かされた話はミヤの異常な挙動の話だったが、俺には気にするほどの問題では無いように思えった。
20時に近くなり、今日は帰ろうと席を立つ。
支払いはロトのあたり分で財布の中が温かい俺がレジで会計をすませる。
二人並んで、道路をわたり家路に着く。
なぜか楓の右腕が俺の左腕に巻き付く。
「ん?」
と顔を向けると、逆に見つめ返された。
それに耐えきれず、ゆっくりと顔を正面に向ける。
固まらず歩き出せたのは重畳である。後で自分を褒めてあげよう。
家が隣同士だから、あと5分ほどこのまま歩くか~。
異常に傾いた車が目に入ったのは、ただの偶然である。
センターラインを大きく超えて、スリップしRV車がこちらに、タイヤを滑らせて迫ってくる。
タイヤの焼ける匂いと耳触りな音が近づいてくる。
「危ない」
と思った時には、体は動かないものだ。
楓が俺の前に体を出す。
大きな衝撃音とともに、体が宙に浮いた。
目の前を楓の体がありえない角度で曲げて飛んでゆく。
車と楓にはさまれて、大きな衝撃は受けていないらしい俺は、茫然とした意識の中で、楓の名前を呼んでいた。
なぜかその時見えた楓の顔は笑っているように見えた。
そして暗転。意識が飛んだ感覚は俺にはなかった。