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破滅阻止物語

作者: アカ

 知ってる? 世界は破滅まっしぐらなんだとよ。ちゃんちゃらおかしくて俺は笑ってしまった。あっはっは。


「……真面目に聞いてください」


 紫色の趣味悪いローブを着た女が言った。髪はつやつやした銀色で、女が髪をかき上げるとそれはするりと指の間を通り抜けた。

 なんだかよくわからないけど、この人は占い師をやっているらしい。

 で、俺は暇だったから適当に占ってもらった。そしたら世界が破滅すると言いやがった。


「そんなこと信じる奴なんかいないっつーの。詐欺師は帰れ帰れ」


 そう言うと占い師はビンタをしてきた。突然のことなので、戸惑いと怒りが急激にこみ上げてきた。


「話を真面目に聞かないからです。次はグーでぶちますよ」


 占い師は冷めた表情で言った。


「で、破滅するからどうしたって言うんだよ。別に破滅するならしていいよ」

「よくありませんっ!」


 占い師が突然叫びやがった。耳がキンキンする。


「我々人間は生き残り続け、高度な文明を発達させるべきです。そう思いませんか?」

「いや、別に……」


 こんな奴相手にしてられない。俺はその場から立ち去ろうとした……が、足を引っ掛けられて転んだ。


「殺す気かコラ!」

「転んだぐらいで死ぬのなら、貴方は究極のヘボヘボ野郎ですよ」

「なんだと!」

「私、何か間違ったことを言いましたか? 所詮ヘボヘボ野郎は死んでもヘボヘボ野郎で、ヘボいのは死んでも治らないんですよ。そして貴方のヘボさは子孫にずーっと引き継がれ……、可哀相な子孫……。ってその前に、貴方みたいなヘボヘボ野郎が結婚できるはずがありませんね。失礼なこと言ってごめんなさい」


 ヘボヘボ言いまくるお前の方が失礼だ。

 思わず溜め息が漏れる。

 なんなんだこの女は。口を開かなきゃ多少はイイ女なのに……。こういう奴は生まれ変わってもこういう性格なんだよな、きっと。

 俺は土を払って起き上がった。足を少し擦りむいてしまったらしく、血が滲んでいた。


「痛い……」

「あらまー、申し訳ないわー」


 絶対に申し訳ないだなんて思っていない。だって台詞が棒読みだったし。


「さて、貴方のこれからを占います。今から言う話を耳の穴をかっぽじって、その少ない脳に詰め込んでくださいね。なんなら紙にメモってあげてもいいんですよ?」

「お前、完全に馬鹿にしてんだろ」

「いいえ、私はヘボ夫さんを馬鹿になんかしていませんよ。これは私の親切です」

「ヘボ夫じゃねえ! 勝手に改名するな詐欺師!」

「そういうヘボ夫さんだって、私を勝手に転職させないでくださいよ」

「だからヘボ夫じゃねえっての! ……まあ、お前ごときに名前なんか教えてやらねーけど」

「別に知りたくありませんし」


 この女の一言一言がムカついてくる。ああ、イライラする。

 そして、しれっとした顔で話し始めた。


「今この星の至る所で火山活動が活発になっています。原因は不明。いや、原因なんてどうでもいいのです。近い将来、世界中の火山が一斉に噴火するでしょう。溶岩流と火砕流で世界は焼き尽くされてしまうわ」

「ようがんりゅう? かさいりゅう? なんだそりゃ」


 占い師の女は呆れたような目で俺を見て、やれやれといった表情で説明する。


「溶岩流というのは、読んで字の如く溶岩が地面を流れること。火砕流は、噴火する時に溶岩が粉砕されて、それが高温のガスと一緒になって火山の斜面を高速で流れることよ。別名熱雲ねつうんと呼ばれていて、速い時は時速100キロぐらいらしいわ。わかった?」


 俺にはなんだかいまいち理解できなかった。

 それを感じ取ったのか、占い師はまた説明し始めた。


「簡単に言うと、溶岩流はドロドロの溶岩。火砕流はすごく熱いガス。これでわかる?」

「ん……、おおまかに漠然とわかった」

「今の説明がわからなかったらウルトラヘボヘボ野郎だったからね。よかったよかった」


 ことあるごとにヘボと言うのはやめてほしい。


「それで、貴方はこれから旅に出なくてはいけません。火山活動を止める旅です」


 俺が……旅に? 火山活動を止める?

 なに言ってんだこいつは。そんなの知るかよ。だいたいこの星がどうなろうと知ったこっちゃない。


「旅に出ない場合、貴方は今から約一時間後に死にます。これは絶対です」

「構わねーし。別にこの世界に未練なんかないからよ。第一お前の言うことは信用できない」

「……とても無残で恥ずかしい死に方です」


 占い師はわざと声のトーンを下げて呟いた。


「貴方は自宅のトイレで用を足していました。それも大きい方です。しかし、紙がないことに気付いた貴方は紙を補充しようとします。ですが、紙はリビングに置いてありました。仕方がないので貴方はズボンを履かずにリビングへ向かいます。しかし、リビングには強盗がいました。丸腰の貴方は強盗に殺され、下半身丸出しの状態の遺体……それも用を足している途中の遺体になります。貴方の遺体は近所の方に発見されますが、非常に恥ずかしい格好です。おまけに臭い。その後の貴方の評判はがた落ちです」


 やけに詳しすぎる……。それが真実だったら、俺は恥ずかし過ぎて成仏できないかも。


「子供達の間では貴方の歌が作られます。『近所の兄ちゃん殺された。茶色い桃を見せつけて、見つけた人は大爆笑。ばっちい臭い、鼻曲がる』ってね……」

「やめてくれーっ! そんなの死んでも死にきれない!」

「旅に出れば殺されませんよ」

「じゃあ旅に出ます」


 即答した。


「決意してくれてよかった……。ちなみに占いによれば、私は貴方の旅に付いていってサポートしなくてはいけないみたいです」


 え、こいつも来るの? それは嫌だなぁ……。絶対うざったい。

 そんなことを考えていたのがわかったのか、占い師は俺のスネを蹴りやがった。


「貴方の旅の目的は火山活動を止めること。活動を止めるには『テンペスター』と呼ばれる者を捜さなくてはいけません」

「テンパースター? 天然パーマのスターを捜してどうすんの?」

「テ・ン・ペ・ス・ターですっ! どういう耳をしてるんですか貴方は。マジでヘボすぎます」


 今はもう反論する気になれない。


「テンペスターとは、空、大地、海のことわりを知り、三つの加護を受けていて、その三要素を操ることのできる人です」

「……あぁん?」


 意味がわからん。理とか加護とか知らんし。


「……とにかくそういう人を捜しましょう。世界の運命は貴方にかかっているのだから」

「俺は物語に出てくる英雄とかじゃねえのに……。ただの宿屋の息子だぜ?」

「役割的には村人Aですね」


 けっ、一般人で悪かったな。


「ところで貴方の名前は? 私はレーナと申します」


 占い師レーナは手を差し出した。握手を求めているみたいだ。俺は握手に応じ、自分も自己紹介した。


「ロビンだ。よろしく」


 レーナは馬鹿にしたように一言呟いた。


「名前も村人Aみたいにありがちなのね……」

「うるせえ!」




 世界が破滅するだなんて未だに信じらんない。

 だって考えられるか? 今現在普通に暮らしているこの世界が、火山の噴火とかで焼き尽くされるだなんて。

 有り得ないよな。ホント信用できない。

 んで、その火山活動を止める為のテンパースター(だったかな?)を捜すのが俺の使命らしい。

 俺は宿屋の息子として毎日を平凡に暮らす筈だったのにな……。このうざったい銀髪長髪女占い師のせいで俺の人生が狂っちまった。


「……なに私を見てるんですか、ヘボロビン?」

「ヘボじゃねえって言ってんだろ」


 いい加減占い師レーナのヘボ発言にも慣れたが、やっぱりうざったい。相変わらず口の減らない女だ。


「なあ、テンパースターってどこにいるんだよ」

「テンペ! スターです。ヘボヘボ街道まっしぐらですね」


 レーナはペを強調した。


「ペーだろうがパーだろうがどっちでもいいんだよ。とにかくそのテンペスターってのはどこにいるんだって聞いてんだ」

「あそこです」


 レーナが指差したのは『峠のお茶屋』と書いてある旅の休憩所だった。

 峠のお茶屋とは、旅に疲れた人が「ちょっくらお茶でも飲もうかね」と一息着くためにお茶を飲んだり、お菓子を食べたり、旅人同士の交流を深めたりする癒し系スポットである。


「あんらまぁ、いらっしゃい」


 店に入ると顔がしわくちゃのババアが出迎えてくれた。ブルドックがさらに酷くなったような顔だ。


「私はベクルーレ茶と草団子」とレーナ。

「じゃあ俺はモル茶。あと焼きおにぎり」

「はい、わかりました」


 店主のババアはゆっくりと店の奥に行った。

 ちなみにベクルーレ茶とは、ベクルーレという国で作られているお茶で、適度な少し甘い味が若い女性に人気らしい。

 で、モル茶ってのは、モルって葉っぱから作られてるお茶。ベクルーレ茶より少し苦めの味だ。


「で、どれがテンペスター?」


 店には五人ほど旅人がいた。

 おにぎりをガツガツ食ってるマッチョな戦士。

 お茶をすする探検家らしき野郎。

 お菓子を食べている荷物の配達人らしき奴。

 なぜかチョコパフェを食べている見た目が十五歳ぐらいの女の子。

 そして読書しながら団子を食べている神聖な感じの服を着たオッサンだ。


「どの方だと思います?」


 逆にレーナが聞いてきた。質問を質問で返すんじゃねえバカタレが。


「俺的には神聖な感じのオッサンだと思う……、と見せかけて! 実はあのババアがそうなんじゃん?」


 あのババアとは店主のババアのこと。が、とっさに「ヘボっ!」と言われた。


「正解は……、あのチョコパフェを食べている子」

「マジで! あの女の子?」


 思わず叫ぶと、声が聞こえてしまったらしく、女の子はこっちを睨んできた。

 金髪のボブヘアーで、白いポロシャツに黒いスパッツという服装。そして大きめのウエストポーチをぶら下げている。


「わらわに何か用なのか?」


 十五歳(推定)とは思えない古臭い口調だった。ちなみに俺を睨みながらもチョコパフェは離さない。一秒に一回のペースでパフェを口に運んでいる。


「お前がテンペスターなのか?」

「いかにも、わらわが、世界一の、テンペスター、なのじゃ」


パフェを食ってるから言葉が途切れ途切れだ。


「世界一? どうせ自称だろ」

「無礼な! わらわが世界一と言っておるからわらわが世界一なのじゃ! おぬし、初対面のくせにちと生意気じゃぞ!」

「自称じゃねえか」


 それに生意気なのはお前だっつうの、明らかに俺より年下だろうが。この『見た目はお子様、中身はババアな女の子』が。

 口に出したらうるさいだろうから言わねーけどよ。


「周りのお客様に迷惑ですから、あまり騒がないでねぇ」


 店主のババアが注文の品を持ってきたついでに注意をしたので、女の子はしぶしぶ黙った。


「で、わらわに何か用でもあるのか?」


 女の子はパフェの中身をぐちゃぐちゃに混ぜている。


「レーナ、代わりに言ってくれよ。俺は焼きおにぎりを食うから」

「確かに貴方が喋るとまたうるさくなるでしょうからね。ヘボヘボ野郎はおとなしくしていてください」


 ふん、なにがヘボヘボ野郎だ。俺は焼きおにぎりを投げつけたくなる衝動にかられた。





「なんと! 世界が破滅するとな?」


 レーナは簡単に説明をしてあげた。世界が破滅すると聞き、本当に驚いたようだ。でもパフェは離さない。


「わらわは……、わらわは今、世界各地のパフェを食べ尽くす旅をしておったというのに……、それなのに世界が滅びるだなんて! この星は全生命と共にパフェという素晴らしい文化も闇の中に葬り去るつもりか! そんなこと許せんぞ!」


 俺はモル茶をすすりながら二人のやりとりを伺う。


「ですから、テンペスターである貴女の力が必要なのです。是非ご協力願いたい」


 レーナは丁寧にお願いをする。俺の時はかなり雑だったよなぁ。なんなの、この態度の違いは。


「勿論じゃ! 勿論協力するに決まっておるだろう! パフェが滅びるなんて言語道断! わらわはおぬしらを全面的にバックアップするぞ!」


 まったく、テンペスターってこんなにうるさい奴だったのか。ガッカリだぜ。せめてそこの神聖なオッサンがテンペスターだったらよかったなぁ。

 っていうか、こんな嘘臭い話を簡単に信じちゃったよ。ある意味スゲェな。


「私はレーナ、占い師です。そっちはロビン、村人Aです」

「宿屋の息子だって!」

「ほう、宿屋の息子は村人A同然ではないのか? 偉そうな態度のくせにおぬしは凡人なのか。ヘボいのう」


 こいつにまでヘボいと言われた。こいつが男だったら一発殴ってるとこだ。


「わらわはエトナと申す。レーナ殿、ロビン、よろしく頼む」


 俺だけ呼び捨て……?



 エトナを加えた俺達三人は、現在馬車に乗って近くにある港町へ向かっている。

 目的はもちろん船に乗るため。実は俺、船って初めて乗るから楽しみだったりする。

 行き先はトロンボリスという町だ。レーナの占いがそう示したから向かうだけだが。


「トロンボリスに行って何をするんだ? まさか観光……じゃねえよな?」


 それだったらさすがにキレる。

 レーナは

「そんなわけないじゃないですか」と言った。


「トロンボリスから別の船に乗り換えて別の大陸へ向かいます。そしてまた船を乗り換え、それを何回も繰り返すことになります」


 船旅か、悪くないな。


「して、最終目的地はどこなのじゃ?」


 持っているウエストポーチに入れていたクッキーをかじっているエトナが聞いた。


「最終目的地ですか……。それは、世界の中心にある島です」


 世界の中心にある島……聞いたことがある。たしか太古の昔に世界一の軍事力を持っていた国が存在していたという所だ。今じゃすっかり滅んでいて、遺跡となってるらしいけど、詳しくは知らねー。


「そこでわらわが火山活動を止めればいいのじゃな?」

「ええ、たぶん……」

「たぶん?」

「具体的に何をするかはわからないんです。でも、占いがそこに行くように私達を導いているのですから、そこに行くしかないんです」

「ふむ……。でも、レーナ殿の占いがなかったら他に行くあてもないし、仕方ないかの。……お、海が見えてきたぞ!」


 エトナは馬車の外に広がる海を見て興奮し出した。けっ、所詮はガキだな。

 陽の光に照らされて、星のように輝く美しい青い海。

 …………。

 早く船に乗りてー!

 ――その時だった。

 突然足元が揺れ、次第に強さを増していった。――地震だ!

 俺はとっさにレーナとエトナを外に放り投げた。安全確保だ。

 続いて俺も外に飛び出す。


「ヘボロビン、もっと丁寧に扱ってくださいよ」

「こらヘボ! わらわの体はデリケートだから気を付けろ!」


 うるせーよ馬鹿。

 ……と、揺れが急激に激しくなった。もはや立つことすらできなくて、一歩も動けなくなった。

 さらに問題が発生した。

 次々と地面が割れていく。地割れだ。

 しかも俺達に向かって広がっている。このままじっとしていたら、俺達は確実に地割れに飲み込まれてしまう。早く逃げないと!

 しかし俺達は動けない。万事休す。


「さて、ここはテンペスターであるわらわの出番のようじゃの」


 エトナは妙に落ち着き払った様子だ。

 そういえばこいつは世界の破滅を食い止めるテンペスターなんだ。きっとこの状況を打破してくれるに違いない!

 っていうか、結局テンペスターって何なの? とまったくわからない俺がいた。

 エトナは小声で何かを呟き始めた。

 ……? 何を言ってるかまったく聞き取れない。っていうか、これは俺達が日常で使っている言葉じゃねえ。

 イントネーションとかが独特で、歌うように次々と言葉が出てくる。呪文か何かか?

 そしてエトナが言葉を止めた瞬間、俺達三人の体がふわりと宙に浮いた。


「な、なんだこりゃ! 魔法か?」

「空の加護を与えただけじゃ。不思議に思うことではない」


 いや、不思議過ぎるんですけど。何なんだよ空の加護って。

 まあいいや、おかげで地震を凌ぐことができる。


「いや、この力は保って数分、しかも浮くだけで移動はできぬ。このままだと地割れで足元の地面が無くなり、死ぬ」


 ……へっ?

 つまりそれって、地割れをなんとかしなくちゃいけないってことか?


「慌てるでないロビン。わらわがいるであろう」


 ああ、そうだったな……。人間を宙に浮かすことが出来る奴だ、きっと地割れもなんとかしてくれるに違いない。

 小憎たらしいが、こいつは仲間なんだ。信じてやらなきゃ。

 エトナは再び理解不能な言葉(呪文?)を呟いた。

 すると地割れの進行がピタッと止まり、揺れも収まった。

 なんか……エトナって凄い。テンペスターって自然を自由に操ることが出来るのか? それにしたって空中浮遊ってのはおかしいけど。


「やりましたね、エトナ」


 レーナがねぎらいの言葉をかけた。

 浮遊の効果が解け、地面に降り立つ。なんとか間に合った。


「この力……役に立ったかの?」

「おう、おかげで死なずに済んだからな! 便利な能力でイイな、羨ましい!」

「便利な能力で羨ましい、か……」


 エトナは震えている。


「使い方によっては兵器にもなりかねない力じゃ。本当ならこんな力、怖くて捨ててしまいたいぐらいじゃ……」


 エトナは俯いた。


「幼い頃、わらわは誤ってこの力で両親を殺してしまったことがある。親戚からは人殺しと煙たがれ、虐待を受けたこともある……」


 俺とレーナは何も言えなかった。


「いっそ死のうと思った。そうすればすべてから解放されると思ったからの。でも、わらわはとある人に助けられた。そしてパフェを食べさせてもらい、『絶望することはない。その力を必要としてくれる人を捜せばいいじゃないか』と言われた。それでわらわは旅に出た、わらわを必要としてくれる人を捜す旅に。あとパフェが美味しかったから、世界各地のパフェも食べたくなった」


 そこでちょうど俺達と出会ったわけか。


「二人がわらわを必要としてくれるのならば、全力で力を貸してやる。おぬしらとはまだ出会ったばかりじゃが、わらわは二人を信じているからな!」


 エトナはにこりと微笑み、


「だから、わらわを見捨てたりしないでくれよ?」




 その後、俺達は港町まで徒歩で向かった。馬車? 知らね、地割れに飲まれたんじゃね?

 ……で、港町に着いた。


「おお、町じゃ町じゃ! 海じゃ海じゃ!」


 エトナが海を見てまた興奮する。

 ったく、海なんて巨大でしょっぱい水たまりじゃんか。なにがそんなに楽しいのかさっぱりわかんねーし。

 …………。

 船には乗ってみたいけどな。


「レーナ殿、少し町を見て回りたいんじゃが……ダメかの?」

「うーん、どうしましょうか……」

「レーナ殿……!」


 エトナは目をキラキラ光らせて頼み込む。


「まあ……少しくらいなら構いませんよ」

「さっすがレーナ殿! 話が分かるの!」


 エトナは嬉しそうに飛び跳ねた。

 ……って、俺に意見は聞かないのかよ。




 というわけで、お土産屋にやってきた。

 この店にはアクセサリーや数多くの雑貨が所狭しと並べられていた。

 小さなトーテムポールが売ってるけど、こんなの誰が買うんだよ。


「わ、可愛いのぅ……」


 いたよ買った奴が。エトナコンチクショウめ。トーテムポールが可愛いだなんて趣味悪いな。


「えっ、名前が『さっちゃん』で可愛いではないか」


 んなトーテムポールいらねえって。

 あとトーテムポールの他に、赤土とか水も買っていた。


「なかなかイイ物が揃ってますね」


 レーナは世界地図と文庫本を抱えている。


「あっ、あれも必要ですかね……」

 レーナは買い物に夢中だ。一応女だしな。

 ……ん、俺? 俺は何も買わねえよ。俺の興味をそそる物がないし。




 他にも色々な店を回り、適当に時間が経ったところで船に乗り込んだ。

 これから向かうトロンボリスっていう所なんだけど、その付近には火山がたくさんあって、しかも頻繁に噴火しているらしい。

 世界が破滅する時はその辺りが一番被害が多いかもな。……って、破滅するんだから被害の規模なんか関係ないか。


「潮風が気持ち良いですね」


 俺とレーナは船の後ろの方の甲板で海を眺めている。レーナは髪をなびかせ、果てしなく広がる大海原に感動していた。

 一方俺は青ざめた表情で手すりにもたれつつ、しょっぱい水たまりを見つめ続ける。


「それにしてもロビン、あんなに船に乗るのを楽しみにしておきながらそのザマですか。ヘボ野郎の極みですね」

「うっせ……」


 まあ要するにアレだ。

 船酔いした。


「海なんて……海なんて枯れてしまえ……」

「なに馬鹿なことを言ってるんですか。じゃ、私はエトナの所に行ってきますんで頑張ってください」


 レーナは、船の先頭の方にいるエトナの所へ行ってしまった。苦しそうにしている俺を放置かよ。


「ウッ! んぬうぅぅッ……! ハア、ハア……」


 あ、危ない危ない。もうちょっとで吐きそうになった。胃液とかが喉の所まで出かかった。

 ……お? 進行方向の先から何かが近付いてくる。

 あれは船だな。かなり大きい。帆にドクロマークが描いてあるから海賊船だな。

 …………。

 海賊船ッ?


「うぐぅ! んぬうぅぅ!」


 でも今は海賊船どころじゃない。こっちは船酔いと戦っているんだ、精神的に参っているんだ……。




 船の先頭の方にいるレーナとエトナ。二人の目の前に現れたのはガラの悪そうな顔の海賊達だった。

 すぐさま船内から船乗りが集まり、海賊と話し合いを始めた。

 海賊の頭らしき大男は

「金と食い物をよこせ」としきりに騒ぎ立てているが、船乗り達は

「めぼしい物は何もない。おとなしく引き下がってくれないか」と頼み込む。

 その時、エトナと海賊の下っ端の視線が合った。下っ端はニヤリと笑い、エトナを捕まえた。


「エトナ!」


 レーナは下っ端に飛びかかるが、軽く突き飛ばされてしまった。

 エトナは必死に抵抗するが逃げられず、海賊の頭の元に連れられた。


「お頭、人質です」

「おう、ナイスだぜ! よく聞け船乗り達よ! この少女を殺されたくなかったら、さっさと積み荷を渡しやがれ!」


 船乗り達は動揺したが、積み荷を渡すだけで人一人の命が助かるものなら安いもんだと思い、その条件を呑むことにした。

 が、次の瞬間海賊の頭はゆらりと揺れた。そして額から血を吹き出し、激しい音をたてて倒れた。

 見ると、レーナが拳銃を構えていた。


「こんな糞野郎共に積み荷を渡すことなんてないですよ。エトナ、今その汚れた魔の手の中から救い出してあげます」


 自分達の頭を殺され、さらに屈辱的な言葉まで吐かれ、海賊の下っ端達は激怒した。それぞれ武器を構え、レーナやエトナ、船員達に襲いかかった。

 海賊の一人が、レーナに銃口を向けた。


「よくもお頭を!」


 レーナはとっさに身構えるが、間に合わない。

 海賊は引き金を引いた。

 銃声が鳴り響いた。

 思わず目を瞑る。

 …………。

 …………?

 いつまで経っても痛みがやってこない。

 目を開けると、土で出来た盾が宙に浮いていて、レーナを守ってくれた。


「大地の加護じゃ」


 よく見ると、これはエトナが港町で買っていた赤土だ。


「くそっ、それならこっちを殺すまでだ!」


 今度はエトナに向かって発砲した。

 しかし、エトナの前に水の壁が現れて銃弾を防いだ。しかも防ぐばかりか銃弾を跳ね返し、逆に海賊の額を撃ち抜いた。


「海の加護じゃ」


 この壁も町で買った水で作られていた。ただの水ではなく、海水らしい。

 エトナの奇行を目にし、海賊達は驚き震え上がった。

 それでも武器を握り、勇猛果敢に立ち向かう。

 海賊達からしたら、レーナとエトナは頭と仲間を殺した憎い存在。逝ってしまった二人と同じ目に遭わせてやらないと気が済まない。

 海賊達は雄叫びをあげ、レーナとエトナは驚き竦みあがった。

 二人に隙が生まれたところで、一斉に襲いかかった。

 レーナの持っている拳銃は鋭い蹴りで床に落とし、エトナは武器を持っておらず無防備だったので簡単に捕まえることができた。


「そういえばこの女、珍妙な術を使う時に何か呟いてたぞ」

「マジで? じゃあ一応口を塞いでおけ」


 エトナは口を手で塞がれて、何もできなくなった。

 レーナもすっかり捕まってしまい、どうすることもできない。


「はっはっは、ざまぁみやがれ!」

「さて、この女共……どうしてやろうか?」


 海賊達は不気味に笑いながら話し合った。縛り首、釜茹で、剣で突き刺す等様々な案が出た。

 自分達はここで果ててしまうのか。世界を救うことができずに逝ってしまうのか。

 レーナとエトナの心は絶望で満たされた。

 ――その時だった。

 レーナとエトナを拘束する海賊が倒れた。死んではいないが、体から血を流してうめき声をあげている。


「仕方ねえから助けに来てやったぞ!」


 偉そうな口振りで現れたのは、レーナの拳銃を拾ったロビンだった。




 つーことで、俺様華麗に登場です。

 拳銃が落ちてたから拾って、二人を捕まえてた奴らを撃ってみた。急所は外れたみたいだけど、まあいいか。


「ロビン! あなた船酔いでダウンしてたんじゃ……」

「出すモン出したらスッキリした」


 結局吐いたんだよ。

 でもアレだな、我慢はよくない。さっさと吐いて正解だった。


「おいエトナ!」

「な……なんじゃ!」

「こいつらをまとめて片付けられるやつをぶっ放せ! お前なら出来るんだろ?」

「……ああ、わらわに任せろ!」


 エトナを俺の後ろに立たせ、呪文みたいな言葉を呟かせる。そうだ、それでいい。

 あとは俺とレーナでお前を守る。その間に魔法みたいなやつを発動してくれればいい。


「ロビン、その拳銃私の物……」

「そうなのか? じゃあ返す、ほれ」


 あ、俺の武器がなくなっちゃったぜ。

 うーん、なんとかなりそうだから別にいっか。


「ロビン……」


 レーナが俺を呼んだ……気がした。が、蚊が鳴くような声だったから、気のせいだと思って放っておいた。


「助けてくれて……ありがと……」


 …………?

 今、なんだか変なこと言わなかったかこいつ? まあいいか別に。

 海賊達が次々と飛びかかってくる。レーナは拳銃で、俺はそこらにある樽やら箱やらでぶん殴る。あと船員達も頑張って戦ってる。


「ロビン、レーナ殿、詠唱完了じゃ!」


 お、あとは発動するだけみたいだ。

 じゃあヨロシク!


「海賊共よ、海の藻屑となり、深海魚の餌となるがいい!」


 海の水が無数の細長い触手をかたどった。ウニョウニョとした動きをしていて気色悪い。

 触手は海賊達の体に絡みつき、そのまま海の中へ引きずり込んだ。


「ギャアァァッ! た、助け……」


 うーん、悲鳴を聞いていると、なんだか悪い気がしてきた。でも仕方ない、何もしなかったらこっちが殺されていたんだし。




「いやはやしかし、俺が来なかったら二人は殺されてたな。まったく手間がかかるぜ!」

「たしかにそうですが、偉そうにしないでください」


 レーナに小突かれた。


「ロビン、おぬしが来てくれた時は嬉しかったぞ。すごく頼もしかった!」

「ふっ、もうヘボいだなんて言わせないぜ」


 これからの俺は、頼りになるロビンさんだ!


「お調子者ですね」

「ナルシストじゃの」

「……って、なんでそうなるんだよ!」


 そして、三人で笑った。

 なんかイイなぁと思った。

 みんなが暮らすこの世界、ちょっくら守ってみようかな。


 俺達の三人の旅は、まだまだ始まったばかりだ……。

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[一言] エトナの心を開くタイミングが早すぎたり、口調からまるで目の敵のようにロビンを扱うレーナの心情は何故? とか疑問もあれば詰め込んでいる感がいっぱいな気もしますが、それでも読みやすく、舞台は分か…
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