水落屋根子
きりんという名の犬(首がふたつに別れている珍しいタイプの、しかしご近所の井戸端会議では倫理がどうだの、自分の娘のあばずれさもしらん中年層のバター炒めたちが噂を立てるようになり始めた)を飼って、溺愛して、突き放して、そして愛撫することをやまない、小学6年生の水落屋根子の存在を知ったのは、図書室のD-406(郷土資料ー文化財)のコーナーでありました。彼女はちょうど、梶町といけにえ市および宝無郡の本たちの真ん中に、どうやらついさきほど技術の授業で何時間もかけた末についに完成させたらしい、木製の小さい椅子を持ち込んで、人の邪魔にさえなり得ない小さな身体をそこに休めて、何かを必死に探しているようでした。こう、なんというか、身体をもぞもぞさせながら、でも意識は本棚なのかはてまた本と本の隙間から覗く、D-407(食品、薬品)の本棚なのか、否その隙間からちょうど”りんごとお医者どっちが強い?”と”食品5000品目カロリー辞典”の間の溝まで貫通した美しい光のストロークにより見える、受付にのんべんだらりと腰掛けた図書委員の算崎のやつを見ていやがるか?そんな風にして私は屋根子に、ベターな言い方で申し訳ないが”夢中”になる時間を与えられたのです。幸い、この図書館は小学校という公共施設であり、児童の行き交う場であることなど忘れてしまえといわんばかりに、驚くなかれ24時間開いておるのです。しかも入り口にはアルバイト募集の張り紙、小学校に対象者はいないだろうと道徳的な人間は思うかもしれないが、果たして10歳~84歳までとある始末。時給ときたら応相談とあります。ふざけたな、と管理人の名前なんてチェックした暁には、6年4組:算崎穴雄と。はあ、同級生か。しかももしかしたらいろんな方向性においてライバルになりかねない。しかし彼のご経営(非営利組織であるべき小学校で?)あっての私の知識および知恵なので、正直頭は上がりませんのです。というわけで、私と屋根子の出会いはこの漫画喫茶改め学校の図書館でありました。出会い?これはまるでコンサートの前の方で熱狂的に歓声を上げる10代半ばの女子が「今キタ次郎と目があった。」というレベルのお門違いなうぬぼれ。私は見たのです。屋根子をいろいろな可能性を含めて見たのです。屋根子は本当に今思うと、ファッショナブルな女性ですね。小学6年の娘さんを客観的に見るところのおしゃれとかきれいにしているというのとは桁も次元も違う、そうそれはハイファッショナブルで在っております。ちなみに私のクラス一番にいかしているらしい、雁今さんは駅前の百貨店でまだ30代前半のお母様があてがってくだすった人気ブランドのワンピースに食欲の失せますようなドドメ色のタイツを合わせてくる時はたいがい、移動教室で久須美君の隣になるのです。30代前半の母親がずっと支援している雁今さんは、みんなと一緒に話すときと、みんなだけで話すとき、それぞれまったく別のニックネームで呼ばれていることを、雁デカさん以外のみんなが知っています。とにかくそんな雁デカのおしゃれなんかとはもう、いろいろ違うのです。格、質、、、もう角質から違うんだ!いろいろ記述の助けになるように勤めて行きたいと思っています。