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B・アウトホームズ  作者: 癒遺言
第一章『Broken Day』
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第二話「会合 -前- 」

B・アウトホームズの世界での時間

・5月14日 夕方

「…………はぁ」


 溜息一つ、いつもの公園の夕方。ベンチに座った僕は憂鬱(ゆううつ)だった。

 乙藤さんが正体を晒したのは数時間前のこと、今僕のいる公園の中には人一人いない。


「まさか……警察の方だったとはね」


 あの後、僕は乙藤さんが警察だということを信用せず大胆にも直接警察署に出向いて問いただした。回答はYES、乙藤さんの正体が完全解明されたのだった。

 警察署を出ると乙藤さんは僕と一緒に行動していた理由を話してくれた。しかも、その理由は


「連続失踪事件の重要参考人、か」


 妹の癒深が話していた噂話、それを乙藤さんは追っていた。話しを聞いた限り、この隣町での失踪数はかなりの数になっているらしい。

 しかも、その失踪は日に日に増しているとのこと。今日の夕方、つまり今の時間帯にニュースで流れるそうだ。乙藤さんは僕がそれを聞けるようにラジオを置いて行った。そして現在、それらしきニュースが横で流れている。


「――市 美田馳(みたせ)町で現在、謎の一家失踪事件が相次いで」

「………本当に本当なんだ」


 耳元で流れてくるニュース、乙藤さんが言った通りのことが流れている。これは大問題だ、こんなことが起こっていると知れば市民は不安に駆られるだけだ。普通は流さないだろうに………しかも謎、何もわかっていないのに。

 そう流すしかなかったのだろうか。


「でも、わからないんだろうな」

「なにが、わからないのですか? 」

「え? 」


 突如、聞こえてきた声に振り向くと公園に入ってくる女性がいた。

 入り口から僕のいるベンチまでちょっと距離があるけれど、彼女の声ははっきりと聞こえた。近づいてくるにつれ彼女の容姿がわかる。

 白いワンピースを着たポニーテールの少女。腰には革ベルトを巻きつけてそこからチェーンリングを吊り下げている。揺れているせいでよく見えないけど指輪には黒い珠が嵌め込まれているようだ。不思議な格好をしていると思ったけどその中で一番目を引いたのは首からペンダントやネックレスのように身に着けている白銀の懐中時計だ。


「こんばんわ。それで、なにがわからないのですか」

「あ、あの………どなたでしょうか」

「あ、これはすみません。私はコトリと申します」

「コトリさん………僕は日方 依人(かなたよりひと)です」

「依人さんですか。すみません、とても憂鬱そうでしたのでつい」


 ぺこりと頭を下げるコトリさん。見た目は僕と同い年くらいなのにとても礼儀正しい人だ。乙藤さんとは全然違う。

 ただ、見た目の恰好のせいか妙に礼儀正しいせいか、なんだか信用ならない。いや、誰に対しても疑ってかかるせいで相手の出方を窺ってしまう。

 それに気付いたのかコトリさんはくすりと笑った。


「そう相手を(にら)んでは警戒しているのが丸わかりですよ依人さん」

「え、あ………すみません」

「いえいえ。まあ、こんな変な格好、それにいきなり話しかけられれば誰だって警戒なさいますから。依人さんの反応は至極当然のものですよ」

「はあ……コトリさん、自分で変だってわかってるんですね」

「他人から見れば変、そう思っていますよ。ですが、自分ではこれが普通なんですよ」

「そうなんですか」

「そうなんですよ」


 感性が違うだけなんだろうな。でも、それが普通なんだよね。

 分かり合えない、自分の考えと相手の考えは全く違う。自分が正しいと思っても相手はそれが間違いだと思う。似通った考えを持っていてもそれが100%同じだとは言えない。

 これは癒深とすれ違っていた時にわかったことだ。あの時はお互いがぶつかり合ってようやく分かり合えるきっかけが作れた。


「それで、お話しいただけますか。なにがわからないのか」

「あ………そうですね」


 この人には話しても大丈夫そうだ。そう思ったのはなぜだろうか。だけど、この人は大丈夫だとなぜか確信していた。

 僕はコトリさんに乙藤さんの存在のことを隠して、僕の身に起きたことを話した。大丈夫そうだけど、全部話すわけにはいかないだろう。話の所々も省いて話した。

 話し終るとコトリさんは目を瞑ってコクコクと頷いた。


「なるほど、ニュースで流れている失踪事件の参考人、ですか。とんでもない事件に巻き込まれましたね」

「はい……コトリさんに話してやっと実感が湧いてきましたよ。そうですよね、とんでもないことですね」

「そうですね、とんでもないです。ところで………依人さん」

「はい」

「あなたは自分が重要なことに気が付いていない、ということには気が付いてますか? 」

「……………はい? 」


 首を横に傾けた。コトリさんの言わんとしていることが全く分からない。重要なことって、なんだろう。


「あなたが重要参考人ということはあなたは事件に巻き込まれたということです。ですが、あなたは警察の方には一度として、事件のこと、自分の名を告げてはいないのでしょう? 」

「……はい、名前も言ってませんし事件に巻き込まれたかもということも話していません」

「なら、なぜあなたは重要参考人、事件に巻き込まれた少年と言われたのでしょうか」

「え………あ! 」


 そうだ、僕は乙藤さんに一度だって名前を名乗っていないし事件のことも話してはいない。だけど乙藤さんは僕を重要参考人だって言った。

 なんで……もしかして嘘だったの?


「いえ、依人さんが重要参考人だということは本当なのでしょう。しかし、あなたが本当に事件に関わったかはおそらくわかってはいなかったでしょう。まあ、それもすでに解決しているでしょうが」

「どういうこと、ですか」

「あなたは一度も事件のことを話していない。事件のことが公になったのはつい先ほど。依人さんが事件のことを知る機会は………ここまで言えばわかりますね」


 つまり、事件に関わった人だと確認するために僕に事件の参考人だと言った? そんな、僕が事件のことを知らなかったらどうするつもりだったの!?


「確信していたのでしょうね、そうでなければそんな捨て身のアタックはしないでしょう」

「なんで…………そんな大胆な真似を」

「必要だからでしょう。重要参考人だということは本当」

「僕が? 」

「ええ。先も言った通り、事件に巻き込まれた。つまり失踪事件に巻き込まれ、唯一失踪から逃れたのがあなた、ということです」

「なるほど…………………え? 僕が、唯一? 」

「…………気が付いていなかったのですか。もし考えが当たっているのであればあなたの家族は」


 僕は彼女の言葉が最後まで出る前にその場から逃げるように駆けだした。走り出すと後ろで彼女が何か言ったけれどまるで雑音(ノイズ)が走ったように僕の耳に正常に届かなかった。

 コトリさんには失礼だけれど、それよりも優先すべきことが僕にはあった。


「嘘だ、嘘だそんなこと! 」


 僕の足はすでにある場所へと向かっていた。少し前まではそこへ行こうとしても足取りが重くなって行けなかったけど、今は忌々しいほどに軽かった。

 頭には、なぜか見知った人たちの顔が流れた。



    ◇    ◇    ◇



「………行ってしまいましたね」


 私の言葉を最後まで聞くことなく彼は行ってしまいました。おそらく向かっている場所は………。

 彼には話さなかった方が良かったでしょうか………いえ、遅かれ早かれ聞かされたでしょうね。なら早めにそれを聞き、自分で確認した方が良かったでしょう。これからは考えることが貴重になるでしょうし。


「ところで、あなたは誰なのでしょうか? 」


 私は公園で枝や葉が茂っている一本の木に目を向けて聞いた。私がここに来る前から依人くんを見ていた人物。うまく気配を消していた男性。

 その方は私に目を付けられたと観念したのでしょう、木の(かげ)から姿を現しました。


「こんばんわ、不審者さん」

「こんばんわ、見目麗しい淑女さん」


 姿を現したのは手や足が少し細い白いコートを着た白い肌の男性、目が赤いところを見るにおそらくアルビノの方でしょうね。彼の白い肌は、徐々に沈んでいく夕陽の光によって映えています。

 彼は覗いていたことに悪気がないのでしょう、嬉々として私を観察しています。まるで獲物を見る様な感じが………。


「最近はとてもいい出会いが多くて嬉しい限り」

「…………あなたは違いますね」

「今日もいい感じの月だ。君の柔肌がとても綺麗に煌びやかに僕の網膜に映るよ」

「本当ならこんなところで会いたくはありませんね。私にも今日やっておきたいことがありますからね」

「でもこの前の子ほどじゃないかな。あの子の中と外のギャップは本当に良い物だったな~」


 こういうのを会話のドッジボールというのでしょうね。私も彼と話すことはありませんし、彼も私の言葉を聞こうとしませんし。

 それにしても彼、もうちょっと言葉を選べないのでしょうか。変態とかそういうものを超えている気がしてなりません。これもこの方の個性なのでしょうね。


「ねえ、切らせて」


 彼はコートから一本の長さ50㎝ほどのナイフを取り出しました。あれは………ジャグリングナイフですね。曲芸師でしょうか。

 切らせて、というのは髪や服のことではありませんね。私を切りたい、私という存在を切りたい。自分の手で直接。


「…………直球ですね」


 本当に、こんなところで出会いたくはなかったですね。


「君との良き出会いに、乾杯」


 酔いしれたような彼の言動、不愉快という気はありませんがさすがに苦笑いしそうです。

 彼は私に一歩づつ近づいてきてナイフを振りかざします、このまま下ろされれば私の肌に彼のナイフが突き刺さりますね。

 まあ、このままでいる気はありませんが。

 彼はナイフを振りおろし、私は彼の腕を握ることでそれを止めた。


「………あれ? 」

「さすがに直線過ぎではありませんか、変態殺人鬼さん」

「普通ならここでみんな悲鳴あげるのにな~」

「異常の私にそれを望んではなりませんよ」

「いやいや、確かに異常に可愛いけど。でもまさか止められるなんて………武術でも習ってる? 」

「ええ、柔術などを」

「あらら、じゃあこれじゃあ駄目だね」


 やっと会話できましたね。興奮していると会話が成り立たないのでしょうか、それだと彼と会話する時は骨が折れますね。

 毎回彼の攻撃を止めなければならない。はっきり言って面倒です。

 手を放すと私は一歩二歩と彼から距離を置きます。彼は私に視線を向けますが近づかずそのままその場で立っています。出来ればそのままでいてほしいですね。


「改めてこんばんわ、変態殺人鬼さん」

「こんばんわ」

「私はコトリといいます。あなたの名前を聞かせていただけませんか? 」

「コトリちゃんね。本当に小鳥みたいで可愛いね」

「あなたは女の子を見るとナンパせずにはいられないのでしょうか」

「いやいや、そんなことはないよ。男の子でも(おとこ)でも平等に接する」

「つまりホモでショタコンでロリコンでペドファイル、ということでOKですか? 」

「OK、でも言い方を変えてくれないかな? 博愛主義者だと」

「変態で十分です」


 大変な方に、出会ってしまいましたね。ですが、先ほどの勘の良さ、もしやこの人。

 これは聞いてみたほうがいいですね


「先ほどから出会い、と言っていますが。あなたの(センス)でしょうか? 」


 私が一つの単語を投げかけると、彼はピタッと身体を硬直させ笑顔を凍りつかせ、次の瞬間に彼の目が怪しく輝いた気がした。

 薄気味の悪い感じが倍増し、彼は舌なめずりした。彼の変態性に拍車がかかった気が……。


「君も、保持者なのかな? 」

「……………ビンゴ、ですか」


 今日は運が悪そうですね。こんなところでセンスの保持者に出会うなんて。

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