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B・アウトホームズ  作者: 癒遺言
第一章『Broken Day』
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「いつもの日常」

B・アウトホームズの世界での時間

・5月12日 朝

 ベッドの中でボクの意識は覚醒した。

 起きると気怠さを感じながらいつものようにカーテンを開け、窓から降り注ぐ太陽の日射しに目を細めながら僕は新しい1日が始まったことを実感した。

 窓を開けるとまだ冷えた春の風が体を撫で、少しだけ身震いした。

 軽く伸びをして完全に目を覚ますと、ベッドの横に置いてあるアナログ置き時計を確認。時計の針は6時になるかならないかを指していた。


 部屋から出ると2階から洗面台のある1階へ階段から転げ落ちないように降りる、前に1度だけ眠気のせいで階段から落ち、家族に心配されたことのある僕はその日から「階段だけは気を付けよう」と心に決めている。

 階段を下りているとリビングから鼻を刺激するにおいが漂ってきた。不快でなく懐かしさを感じるような匂いだ。


「おお兄者、おはよう。今日も無事に階段を下りたようじゃな」

「ん、どうしてわかったの」


 洗面台に着くと台の上に立ち爺口調で朝の挨拶をする我が妹が歯を磨いていた。僕はその隣に立って蛇口を捻り、流れる冷たい水で顔を洗う。


「顔に書いておるよ。安心しきった、緩みきった顔じゃ」

「なるほどね」


 彼女の名前は日方(かなた) 癒深(ゆみ)、僕こと日方 依人(よりひと)の妹だ。頭脳明晰ですでに大学レベルの問題も楽々と解く彼女は今年から通う中学のために身支度にやる気を出している。現在、歯磨きを終えて最近お気に入りの犬耳コサージュの位置づけに悪戦苦闘しているようだ。


「む~、駄目だ。(わらわ)ではどうにも位置付けがうまくいかぬ………兄者、今日も頼んで良いか? 」

「うん、いいよ」


 横で顔を洗っているとすまなさそうな声で頼んでくる、僕はタオルで顔を拭くとすぐに犬耳コサージュを受け取り彼女の後ろに立つ。もう何回も頼まれるので今では鏡を見るとすぐに良い位置を見つけて1分掛けることなく済ませられる。

 彼女は台の上に立っているけど彼女は背が小さいせいで台を使って頭の天辺がやっと僕の胸のあたりまでくる。その背が低い癒深が犬耳コサージュをつけている姿は子犬を思わせられる。


「はい、できたよ。これでいい? 」

「……うむ! いつもながら良い位置、しっくりくるぞ兄者」

「それなら良かったよ」


 両肩に手を乗せて聞くとじーっと鏡を見つめていた癒深が満面の笑みで何度も首を縦に振って答える。その度に肩まで切り揃えられた黒髪が手の甲に触れこしょばゆく感じる。

 いつも手伝いをしながら思うけれど、教師はこういうアクセサリに反応しないのだろうか?


 疑問を浮かべながら歯を磨き、(うがい)を終えると妹を連れだってリビングに向かう。リビングの扉を開けると、階段を降りている時から鼻孔を刺激していた匂いが増した。


「む、今日は和食のようじゃな」


 癒深も匂いの正体に気付き頭に感嘆符を浮かべる。漂ってきていたのは味噌の香りだった。

 我が家の朝の食事は洋食と和食の二つがランダムで決まる。なぜランダムなのかというと、両親ともに料理人で母が和食、父が洋食を専門にしているからだ。

 二人とも職に生きている節があり、朝早く起きた方が今日の朝食を作るという決め事をしている。ごく偶に同時刻に起きることがあるのだけど、その時はジャンケンで決めることにしているらしい。

 和食だと味噌汁、洋食だとコーンスープの香りが漂ってくるのですぐにわかる。今日は味噌の香りがするから母が早く起きたようだ。


「おはよう母さん」

「おはようじゃ、母よ」

「おはよう依人、癒深。お父さんを起こしてくるから少し待っててね」


 すでに朝食を作り終えていたようで食卓には今日の朝の品々が置かれていた。

 母は手早くエプロンを外すと父を起こすために僕たちと入れ替わりでリビングを出て行った。早起きに負けた方は呼ばれるまで惰眠を貪るのだ。



「そういえば、最近隣町が物騒だそうじゃよ」


 朝食をとっていると、癒深が思い出したかのように口を開いた。物騒とは、一体どんなことが起きているのだろうか。

 我が家では人が何かを話すときはまず最後まで聞くのが暗黙の了解となっている。父も母も口を閉ざし、僕も食べながら癒深の話に聞き耳を立てる。

 家族が全員が聞きの体勢に入るのを確認した癒深は、ゆっくりと話し出した。


「殺人事件だそうじゃ」




 癒深が「最近」と言ったそれは、父も母も、僕も知らない話だった。

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