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第四話:異世界の生活

いきなり十五年後です。一応、戦闘シーンはありますが、ただの導入なので、わくわくするようなものではないです。

そこは、朝霧が立ち込める、深い森の中。まだ日も昇っていない、早朝の時間。

見上げる程の大樹が立ち並ぶ中、二つの影が疾走していた。影は二つとも人の形をしているが、前を行く方は明らかに人ではない。

緑がかった黒っぽいゴツゴツした肌にギョロリとした目をもつ、成人男性より一回り大きな体躯の“オーク”と呼ばれる魔物だ。

武器を扱う程度の知恵を持つため、中級の魔物の中でもそれなりに厄介な魔物として知られている。だが、今はその顔を怒りと恐怖に歪め、後ろから迫る驚異から必死に逃げようとしている。

もうひとつの影は、十五、六歳ぐらいの黒髪黒眼の少年だった。

まっすぐに標的であるオークを視界におさめ、凄まじい速度で滑るように駆けている。



二つの影による競争は、すぐに終わりを迎えた。

黒髪の少年の影が、オークをあと二、三メートルの距離まで追い詰めた瞬間、少年の手が漆黒の刀を振るい、その姿はオークを追い抜いていた。

少年が立ち止まって後ろを振り向くと、その視線の先で首を刈られたオークの身体が、ゆっくりと地に倒れるところだった。




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆





「ふぅ…。やっと終わったー!」


オークを倒した少年―異世界で十五年の時間を経た龍斗は、今倒したばかりのオークから、換金部位を取り除き、もと来た道を戻っていく。


「う~ん。でも、依頼では10匹ぐらいって、書いてあったはずなんだけどなぁ。」


龍斗が洞窟の近くにある空き地に戻ると、30匹ほどのオークの死体が散乱していた。

龍斗は、ギルドの依頼でオークの討伐に来ていたのだが、明らかに依頼を受けた時に聞いていたオークの数よりも、多いことに首を傾げる。


「まぁ、とにかく早く町に行って、換金と依頼終了の手続きをしないとな。夕食の時間に遅れそうだし。」


考えても意味はないので、ギルドに報告すれば、依頼達成の報酬を上乗せしてもらえるかなと、考えながら換金部位を集めていく。


「よし、これで全部かな?」

龍斗は、作業を終えると換金部位を入れた袋を担ぎ、山を降りるべく麓に向けて歩き出した。




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆





ここはウェステ大陸の東北に存在する国、セーリオン王国。

海に面した国で、シジク諸島郡と呼ばれる大小の島々が並ぶ諸島が近くにあるため、交易が盛んな国である。


付け加えると、この世界には、ウェステ大陸のほかにノースレリア大陸、イルスティス大陸の二つの大陸が存在する。

また、この世界は地球とは時間において違いがある。

この世界の一年は450日あり、45日ずつ10ヶ月で構成されている。また、一日の時間は25時間となっている。



閑話休題



龍斗は拠点として、セーリオン国の第二の都市とうたわれる、フィゼルの街のギルドを利用している。

街を囲む城壁の門で、守衛の人達にギルドに登録している証である腕輪を見せて、龍斗は街に入る。

もうすぐ夕方になるため人が多く、混雑している市場の間を、今夜の夕食の献立と購入しなければならない食材を考えながら歩いていく。



通い慣れた道を歩いていると、目的地である冒険者ギルドが見えてきた。


そこは一見すると、少し大きな酒場のような建物だった。

看板に双剣とイバラが意匠化したギルドのシンボルマークがなければ、そこがギルドだと分からないかもしれない。


龍斗は慣れた様子でギルドの扉を開いて中に入り、奥のカウンターへ向かう。


「よぉ、龍斗。今日はいつもより遅かったな。」


龍斗がカウンターの前にいくと、そこに居た藍色の髪の男性が気安い様子で話しかけてくる。


「ただいま、ダンテさん。ちょっと今回の依頼で話しておきたいことがあるんですけど、換金の後に時間はありますか?」


「あぁ、少しぐらいなら大丈夫だ。」


龍斗の言葉に頷くと、このギルドのマスターであるダンテ=ベルナードは、手早く龍斗が持って来た魔物の部位を鑑定していく。


鑑定が終わると、換金した分と依頼料を受け取り、龍斗は他のギルド員に仕事を交替したダンテと共に二階のマスターの応接室に場所をうつす。


「で、気になったことは何だ?」


応接室のソファーに向かい合わせで腰かけると、ダンテが龍斗に話の内容を問う。

しかし、ダンテも内容は察しがついているようで、一応確認のために訊いている感じだった。


(やっぱりおかしいと思うよね。)


「換金されたなら、俺が言いたいことは分かりますよね?」


「やっぱりか~。で、実際はどれぐらい違ったんだ?」


予感が的中したと知って、顔をしかめるダンテ。


「依頼書に書かれていた数の、およそ三倍ぐらいでした。養父から魔術を学んでいる俺は平気でしたが、あの依頼は本来Dではなく、Cランクの依頼になると思います。」



ギルドには冒険者と依頼にそれぞれH、G、F、E、D、C、B、A、S、SSと10段階に分けたランクがついており、だいたい一人前の冒険者でDランクぐらいである。


龍斗自身のランクはDランクだが、まだ登録して一年ほどなので、ランクアップは結構早いほうだ。



「ハァー、すまん。こっちの調査不足だな。迷惑かけたようだから、報酬にいろをつけとくよ。

しかし、こう何度もこんなことがあるとギルドの信頼に関わりそうだな。」


「ん?ちょっと待って下さい。他にもこんなことあるんですか?」


龍斗の報告に肩を落とすダンテに、龍斗は気になった部分を聞いてみる。


「ん~、確証はないが、この頃魔物の繁殖が異常にはやくなってところがあるんだよ。

ギルド内では、もうすぐ日食がくるからその影響だろうてことになってる。

実際昼に起こる日食の時には、いつもより魔物が凶暴化しやすくなるって、記録もあるからな。」

「へ~、そうなんですか。初めて知りましたよ。」


「昼間に日食が来るのは、数十年に一度くらいだからな。知らないやつの方が多いのさ。」


龍斗はダンテの言葉になるほどと頷いて、女性のギルド員が淹れてくれたお茶を飲む。


「それと、今回の依頼がCランク相当だとすると、お前のランクがCに上がるな。」


「そうでしたっけ?」


「張り合いのないやつだな、おい。普通ならCに上がるには才能があるやつでも10年以上はかかるってのによ。」


ギルドのランクは、ひとつ上のランクの依頼を五回成功させなければ昇格できない。また、バランスをとるために、自分のランクと同じランクの依頼を十回以上は受ける必要がある。

チームで依頼を受ける場合、人数で割った数しか加算されない。―例えば、五人で受けると1/5回と数えられる。―

簡単な依頼なら、単独で達成するのも難しいことではないが、難しい依頼ほどある程度の人数で行うのが普通である。

そのため、ランクが上がれば上がるほど、昇格が難しくなるのだ。


「俺の場合は、ずっとソロでやってますからね。他の人より早いのは当たり前でしょう?」


「……ずっとソロでやれてるところが、当たり前じゃないんだが…。まぁ、なんにせよ、お疲れさん、龍斗。」


ダンテの労いの言葉に、龍斗は笑って頷いた。





☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆





「ただいまー!遅くなってごめんね、父さん。」


「おかえり、龍斗。」


龍斗の帰宅の言葉に、父さんと呼ばれた赤髪に琥珀の瞳の初老の男性クゼン=フォーリアは、杖を磨きながら言葉すくなに応じる。

端から見ると素っ気ないと思われそうだが、クゼンが元々寡黙な質だと知っている龍斗は、気にせず台所に向かう。

台所のテーブルに買ってきた食材を出し、夕食の準備に取りかかる。

龍斗は、転生する前から料理はそれなりに好きだったので、味はかなりのものである。

また、料理の種類は元の世界の方が豊富であったため、クゼンも龍斗の料理を気に入っている。

龍斗が料理当番になるのは、自然の流れだったのだ。



龍斗は手早く料理を作っていき、テーブルに並べるとクゼンを呼んで夕食を食べ始める。


夕食の時間はいつものように、龍斗が今日あったことを話し、クゼンが相づちをうちながら聞いている。


二人とも食べ終わると、龍斗が片づけをするために食器を水洗い場に移動させる。


「龍斗、この後話がある。片づけを終えたら、居間に来なさい。」


「は~い。」


養父が夕食中に話さず、改めて居間に呼んだことに、何か大事な話かもしれないと思いながら、龍斗は頷いて片づけのスピードを早めた。




龍斗が片づけを終えて居間にいくと、クゼンはソファーに座って、目の前のテーブルに置かれた手紙を見ていた。


龍斗は手紙が未開封である様子をみて首を傾げながら、対面のソファーに座った。


「龍斗、これはそなたに届けられた手紙だ。」


「俺に手紙ですか?」


クゼンは龍斗が来たのをみて、口を開いた。その言葉に、龍斗は戸惑いを隠せなかった。

龍斗とクゼンが暮らしている家(屋敷と言ってもよい大きさだが)は森の奥の泉を支点とした結界の中にある。

元冒険者であり、一流の魔導師であったクゼンが、国の勧誘などを煩わしく思って住んでいる場所なので、周りの森はそれなりに腕のたつものでも、一日ですら居られないような魔物の住みかなのだ。

クゼンに魔法を教わった龍斗は、今は単独で転移を使い、街と家を往復しているが、基本的に二年ほど前までこの森で修行に集中していたため、知り合いといえる人は数えられるほどしかいない。

そんな自分に手紙が来るだろうかと考え、龍斗はあることに思い至る。


「もしかして、学園からの試験結果ですか!?」


「そうだ。まだ中は見ていないから、開けてみなさい。」


「はい!」


龍斗は新しい人生を生きるこの世界をもっと知りたくて、ウェステ大陸一と言われるリーオニア国立学園の入学試験を受けたのだ。

その結果が届いたと知り、急いで封をあけ、さっと目を通す。


「やった!合格だ!!学園にいけるんだ!!」


龍斗が喜んで報告すると、クゼンは頬を緩めて頷く。

つかの間、二人で喜び合う。



「ところで、龍斗。きちんと指輪はつけておるか?」


クゼンのその言葉に、龍斗は自分の胸元を押さえる。今龍斗が右手につけている指輪には、胸元にある紋章が見えないようにする効果があるのだ。


「そうか。分かっておると思うが、そなたの出生や“加護”は隠さねばならない。強すぎる力は、欲望を引き付けてしまうからな。

よいか、龍斗。本当に信用出来るもの以外に知られないようにしなさい。

自分だけでなく、周りにも被害が出るかもしれないからな。」


「うん。分かってる。俺の力は使い方を間違えれば、いろんなものを簡単に壊してしまうから、気をつけるよ。」


クゼンの言葉に、龍斗は素直に頷いた。そんな龍斗の様子に、クゼンは優しい眼差しを向けた。


「一応注意はしたが、そなたなら大丈夫だろう。

明日から準備で忙しくなるから、早く寝るといい。時期的には、少し余裕を持って今週中には学園に向かったほうが良いからな。」


「うん。おやすみ、父さん。」


「あぁ、おやすみ。」


話を終え、龍斗は自分の寝室に移動していく。

その姿をクゼンは寂しさが混じった表情で見送る。


(別に今生の別れではないのに、一時とはいえあの子と離れるのがこんなに寂しいとは……、いつの間にか本当の子供のように思っていたのだな……。)


クゼンはそんなことを思う自分に苦笑した。

龍斗は転生者であり、自分より下と言っても、出会ったころから大人といってより年齢だったのだ。

しかも、神の……それも三大神の一角リーフェルシークのまごなのだ。

本来なら、クゼンの態度は神に対する冒涜ととられても、おかしくない。

だが、この十五年間龍斗と暮らしてきて、たっぷりと情が移ってしまっていたのだ。



クゼンはこれから五年間は、長期休暇の時しか龍斗が戻らないことを思い、深い溜め息をついたのだった。





作中に日食の話がありますが、周期とかはお気になさらずに読んでください。

この世界は時間軸が違う設定なので、これからも違和感があるときがあるかもしれません。

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