第二話:事故
ええと、かなり短い文章ですがこの話と次話で異世界トリップします。
「お疲れさま。お先に失礼します」
蒼木龍斗は隣の席の同僚に声をかけて、席を立つ。
手早く荷物をまとめると足早に会社を退社した。
「ふう、あつ~。もう9月になるのに、なんでこんなに暑いんだ」
会社を出てすぐに強い日差しに当てられて、思わず呻いてしまう。しかし、文句を言っても気温に変化はないので、すぐに歩き出す。
「お~い!龍斗。こっち、こっち」
陽気に自分の名前を呼ぶ声に顔を向けると、五人の男女がこちらに向けて手を振っている。
「ごめん。待たせた?」
集まる予定のメンバーが、自分以外全員集まっているのを見て、龍斗は頭を下げる。
「え~。そんなに気にしないでよ。仕事忙しかったんでしょ?」
「そんなに長い時間待った訳じゃないぞ。俺なんて五分前に来たばかりだ。」
五人のなかで快達な感じの女性と男性から軽い返事が返り、龍斗は顔を上げて苦笑した。
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とりあえず、大学時代から常連となっているカクテルバーに行くことになり、雑談を交わしながら歩いて行く。
「でさ、その子大学生で、剣道やってるんだって。龍斗のこと話したら、すごい興奮して、質問攻めにされたんだぜ。親しくはなれたけどなんか複雑…」
話の流れで恋愛話になり、龍斗は少し居心地が悪い思いをしていた。
「そらそうでしょう。剣道の全国ナンバーワンと自分を比べてるあんたが可笑しいのよ」
「ふふ、龍斗はかっこいいからモテモテだものね」
「顔良し、頭良し、おまけにめちゃくちゃ強いとか、理不尽じゃないか?」
「いえ、あの~。龍斗君が悪い訳じゃないんだし…」
龍斗は中性的で整った顔をしているのでかなりモテる。だが、龍斗自身は告白されてもその気になれず、今まで誰とも付き合っていない。
実を言うと好みのタイプなどもよく分かっていなかった。
五人で龍斗をからかいながら、カクテルバーのすぐそばまでやって来た。
ふっと何かに気付いたように龍斗は顔を上げ、続いて顔をしかめた。
「龍斗、どうかしたのか?」
その変化に気付いた男性の一人がわずかに不安を伴う口調できく。
龍斗は目を細めて、真剣にこれから行くことになっていた2階建の建物を観ている。
「なんというか……。ここ、今日はやめた方がいいかも…」
龍斗の警戒心が混じった返事を聞いて、五人は残念そうな顔になった。だが、誰も龍斗の意見に反対しなかった。
龍斗は勘が鋭い。付き合いの長い五人は、その事をよく知っていた。前に一度、龍斗が反対したレストランに入った時に不良達の喧嘩に巻き込まれたこともあった。
全員龍斗に叩きのめされたが…。
「じゃあさ、駅の近くにできた居酒屋さんに行かない。
先輩が、料理がおいしいて、言ってたよ」
その言葉に全員が賛成し、その場を後にする。龍斗は一度振り返って、じっとその建物を見ていたが、友人の一人に呼ばれて歩き出す。
建物を見ていた龍斗の瞳には僅かに緑色の光が瞬いていた。
龍斗達が立ち去ってから暫くすると、そのカクテルバーに強盗達がはいっていった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「う~ん。今日も暑いな~。でも、今日は営業で走り回る必要は無いし、昨日よりは楽かな」
一夜あけて、龍斗は仕事に向かうために通い慣れた道を歩いていた。大通りに差し掛かり信号待ちをしていると、いきなり背筋にザアーと悪寒が走った。
(なんだ?昨日よりも強い嫌な予感がする。一体どこから…)
龍斗は予感に従って僅かに緑色の光が瞬き始めた瞳を背後に向ける。
ザアー、ザアー、ザアー…
その途端頭にノイズが走り、目の前の光景が揺らぐ。揺らぐ視界の中で大型のトラックが曲がり角の内側にいたバイクに気づかず、転倒して道路上を滑って行く光景が映し出される。その光景の中、トラックが進む先には……
二人の子供が近づく脅威に気づかずに笑顔で笑い合っていた。
プツン…
唐突に視界が戻りノイズも消える。
(今のは一体?)
突然見えた光景と今目の前にあるなんの異常もない光景とが噛み合わず、龍斗は軽い混乱に見舞われた。
ふっと、目の前に伸びる道路上をこちらに向けて歩いて来る二人の子供が目に入る。
(あの子達は、さっき見えた事故でトラックが衝突した……)
混乱している龍斗の目の端に奥の曲がり角を曲がろうとしているトラックが映り込む。
(まさか!?)
龍斗は確証もない自分の予感に背を押されて走り出す。
龍斗は自分の目に時折、人に見えないものが映ることはしっていた。だが、それはなんとなく感じる嫌な予感が視覚的に靄のようなものになって見えているだけで、ここまではっきりしたものが見えたのは初めてだった。
それでも龍斗には今見たものが確実に起こることだと確信していた。それは本能的な確信だった。
ガッッ!
龍斗の確信を裏付けるようにトラックが並走していたバイクに気づかずに曲がり角でぶつかった。
衝突の衝撃でコントロールを失ったトラックは、自分達に危機が迫っていることに気づいていない子供達に向かっていく。
(やばい!間に合うか?)
龍斗は後先考えずに子供達を渾身の力で弾き飛ばしていた。
(良かった。間に合った)
龍斗が子供達の無事を理解した瞬間…
体に巨大な質量を持った物体がぶつかり、身体中を激痛が走り抜ける。
子供達の泣き声が聞こえたのを最後に龍斗の意識は闇の飲み込まれた。