帰り道
夕陽が空を赤く染めている。
学校からの帰り道、僕は幼馴染のA子と一緒に歩いていた。
最初はたわいない話をしていたけれど、家が近づくにつれて話題は減り、お互い喋らなくなってくる。
理由はA子にあった。
いや、正確には、A子の家庭に、だ。
A子の父親は普段は穏やかだけど、酒が入ると暴力的になる。
夜になると時折、瓶が割れる音が近所に響いていた。
物に当たるだけなら、まだいい。
しかし実際はA子の顔や腕に痣が出来ていることもあった。
そのことは近所でも噂になっているが、誰しもトラブルには巻き込まれたくない、と助けることはない。
僕は以前警察に相談しようとA子に持ちかけたことがあるけど、大丈夫、と断られてしまっている。
「……なぁ、本当に大丈夫なのか?」
ポツリ、と訊いた。
A子は、うん、と返事を返す。
無言。
家の近くに差し掛かった所で、A子が止まった。1拍置いて僕も止まる。
「ねぇ、これ内緒にしてくれる?」
「これって、何を?」
「いいから、内緒にしてくれる?」
A子の真剣な眼差しが僕を捉える。
僕は首を縦に振った。
「そろそろ、落ち着くから」
そう言って、A子は走っていってしまった。
それはいったいどういう意味なのか。
僕はA子の言葉の意味を考えることに集中してしまい、後を追うことが出来なかった。
数日後。
赤色灯が辺りを照らす。
救急車とパトカーが、A子の家の前に停まっていた。
妙な胸騒ぎ。嫌な予感。
A子の家から警察官と救急隊が出てくる。その後にA子とお母さんの姿。2人は頭を下げ、警察と救急隊は去っていく。
ふと、A子がこっちを見た。そしてお母さんと顔を見合せた後、2人して僕へと顔を向けた。
表情は見えない。
だけど、口元が三日月のように歪んでいた。
先日のA子の言葉が思い出される。
そろそろ、落ち着くから。
その意味を理解した瞬間、僕の体は硬直した。
いったいどう落ち着いたんですかね?




