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1話 執着のウサ耳


 突如草原にこだまする虎弐の悲鳴。

 ウサ耳の少女はそれに顔をしかめ、パタリと両耳を折りたたんでいた。


「……っるさいなぁ。変な声出すなよー」

「しゃ、しゃーないやろ!? 素っ裸なんやから!」

「別にいいじゃん、珍しいもんでもないし……ちっこいから目立たないぞ!」

「それが余計に恥ずかしいんじゃ! 傷口抉るなや!」


 悪気なく笑顔で言ってのける少女に、虎弐は顔を真っ赤にして喚く。

 少女は少し悩む素振りをすると、何か思い付いたように口を開いた。


「そうだ、ウチが何とかしたげる! ちょっと待っとり!」

「え、おいっ!」

 ウサ耳少女はその細い足で、風を巻き起こしながらあっという間に走り去る。

 

「……す、すげぇ」

 取り残された虎弐は呆気に取られ、ポカンと開いた口が塞がらなかった。


 〈ドドドドド……!〉


「うぉっ、何!?」


 数分も経たないうちに聞こえてくる轟音。

 虎弐は恐怖で身を引きながら目を凝らすと、遠方に砂煙と小さく少女の姿が見えた。

 

「ひぃぃっ」

 

 砂煙と共に笑顔で迫り来る少女。

 その常人離れした身体能力に怯え、虎弐はその場から逃げようと全速力で駆ける。


「待てよー! ほらー、いいの取ってきたからー!」

  

 しかし爆速の少女から逃れられるはずもなく、虎弐は呆気なく捕獲された。

 

「は、離せバケモン! 俺に関わるなー!」

 虎弐は裸なことも忘れ、腕を振りほどこうと必死でもがく。

 目を瞑ったままバタバタと手を動かす虎弐を、少女は特に気にもせず素早く何かを体に巻き付けていく。

 

「まーまー落ち着いて。えっとなぁ……これをこうだろ? そんでここを結んで……完成だ!」

「……え?」


 ようやく目を開けると、体にはちょうどいい葉の付いた蔦が巻かれていた。

 股間が隠れたのはいいとして……何故かそれは胸にも巻かれ、ちょっと過激なビキニのようだ。


「なぁ……わざとやっとるんか?」

「何が?」

「いや、もうええ」

 目を丸くする少女をジトっと見つめ、虎弐は胸に巻かれた蔦を引きちぎる。

  

「あぁっ! せっかく上手に巻けたのに……」

「男が胸隠してどないするんじゃ! グラビアの撮影か!?」


 《ツッコミ確認……生命維持完了》


「……は?」

 (何や、今の声)

 

 声を荒げた瞬間、虎弐の脳内にアナウンスのような声が響く。

 しかし周りを見渡しても、キョトンと首を傾げるウサ耳少女以外の人影は無い。


「おーい……おーい!」


 考え込んでいると、少女の呼ぶ声が耳に届く。

 顔を上げると、少女は不思議そうな顔で覗き込んでいた。


「お前、大丈夫か?」

「お、おう……まぁな」

 状況がわからないままに、虎弐は曖昧な返事を返す。

 

「なぁなぁ! 服だったら、この先に小さな町にあるはずだ。行くならウチが案内してやるぞ?」

「マジか!? それは、助かるかも……」

 虎弐は少女の提案に一瞬喜ぶが、すぐにある事を思い出す。

 

「でもお前……確か金無いんじゃ」

「な、何で知ってるんだ!?」

「いや、あんな大声で歌っとったし」


 虎弐は出会い頭に聞いた、少女の絶望的な歌の歌詞について突っ込んだ。

 すると、少女は難しい顔で腕を組む。


「う〜ん……確かにそれは唯一の悩みなんだけど。とにかく、ボロい服を買う金くらいある! さっき蔦を探すついでに珍しい木の実も採ってきたし、それを売れば何とかなるのだ!」

「そ、そうなんか……じゃあ、世話になる」

「おう! 任せとけ!」


 少女は胸を張り、ドンと叩く。

 虎弐は僅かな不安を感じながらも、助けてくれる少女に素直に感謝した。


 ――――


「そう言えば……お前、名前は?」

「ん? ウチはラビファー、ラビでいい。無一文のお前は?」

「無一文言うな! 俺は、加藤虎弐……トラジでえぇ」

「トラジか! ひひ、変な名前〜」

「うっさい! ラビも大概やろ」


 トラジは頭の後ろで手を組み、遠くに小さく見える町を眺めながら歩く。

 並んで歩くラビは、ちょうどトラジの肩くらいの背丈。

 パッと見はただの小柄な少女だが、頭には大きな耳と異常な身体能力を持つ。

 トラジはそんな彼女について、素朴な疑問をぶつける。

 

「なぁ……ラビは人間とちゃうんか? その耳、ウサギみたいやし」

「ウチは兎の獣人だぞ」

「獣人!? そんな漫画みたいな……ここではそれが普通なんか?」

「ん? 普通と言うか、他にも色んな種族がいるぞ? 獣人だけでも、猫とか犬とか……あと鳥も!」

「……に、人間はおらんの?」

 トラジは混乱で足を止め、ゴクリと唾を飲む。


「あぁ、もちろんいるぞ!」

「そ、そうか……良かった」 

 同じ人間が存在すると知り、トラジは安堵し息を吐いた。

 そんな彼の様子に、ラビは片方の眉を上げて尋ねる。


「トラジは、いったいどこから来たんだ? 何も知らんみたいだけど」

「うっ……わからん。急に、あの草原に裸で放り出されてて」

「ふぅん……記憶が無いのか?」

「いや記憶喪失っつーか、全く知らない世界に来た。みたいな感じ」


 話を聞き、ラビは大きな瞳を見開きキラキラと輝かせる。

「もしかして……転生者か!?」

「な、何で知って」

 突然言い当てられ、トラジは驚き言葉に詰まった。

 

「やっぱり! 凄い、初めて見た! 昔母ちゃんに聞いたことあるんだ。この世界には時々転生者が現れるって!」

「え? 他にもおるってこと?」

「うん! でも、滅多に出会えるもんじゃない。妖精くらいの存在だな!」

「よ、妖精……」


 (他の転生者……それも、あのジジイの仕業なんかな。ってか妖精って、とことんファンタジーやな)


 トラジはポカンとしながら、まだ自分が夢を見ているのではと考えていた。

 しばらく呆然と前を見つめ歩き続けても、一向に遠くの景色は変わらない。

 トラジは何気なくラビに問いかける。


「つーか、あの町まであとどんくらい?」

「あぁ、あと1時間くらいで着くよ」

「1時間!? 車とか、最低チャリでも使う距離やろ」

「何だそれ。ウチはどこでもこの脚で十分!」

 ラビは得意気に、その場でピョンピョン跳び跳ねる。


 (ヤバイ……こいつ体育会系や)


 鼻息荒いラビに、トラジは冷ややかな視線を送った。

 

「はぁ、まぁしゃーないか……あー、腹減ったー!」

 文句を言いたいが、裸一貫では何も言うことは出来ない。

 トラジは早々に諦め、空に向かって大声を上げる。


「あはは! ウチも腹減ったー!」


 トラジを面白そうに見つめ、ラビも同じように声を上げた。

 そして何か思い出したように、肩に引っ掛けた麻袋の中をゴソゴソと探る。


「ん〜……あった! ほい」

「あ? うおっ、危な」

 ラビは突然丸い物体を放り投げ、トラジは落としそうになりながらもギリギリで受けた。

 

「……何これ」

 受け取ったのは、緑に青い斑点のある丸い果実のようなもの。

 トラジはそれを不審そうに見つめる。

 

「シャクの実だ。味気ないけど、腹の足しにはなるぞ?」

「知らねぇな……色合いはヤバイけど、ほんまに大丈夫か?」

「大丈夫だって! ほら、ウチも食べるから」

 ラビはそう言って、袋からもう1つシャクの実を取り出した。

 

 トラジはあまり期待はせず、半信半疑でそれに噛りつく。

 カリッと水分が少なめの食感で、噛むほどに酸味と申し訳程度の甘味を感じる。

 

「……うん。今だから食えるけど、マズいな」

「だろ? ウチも、極限状態でしか食べん」

 複雑な表情で口を動かすトラジに対し、ラビは笑顔のままガシガシと食べ進める。


 (こんな時、()()があったらなぁ……)


 物足りなさを感じ、トラジはある定番調味料を欲した。

 その時、また頭にあの声が響く。


 《マヨネーズモード……対象に指を向けて下さい》


「……は?」


 アナウンスのような声に、トラジはキョロキョロと見渡す。

 やはり、周囲に人影は無い。

 疑問に思いつつトラジは声の通り、シャクの実に人差し指を向ける。


 〈……ぴゅっ〉


「な、何か出た!?」


 突然飛び出した白い液体。

 それはまるで、お好み焼きに掛けるマヨビーム。

 頭に響いたマヨネーズモードの声に、トラジはハッと状況を理解する。


「まさか……マヨネーズ!」


 歓喜の声と共に噛りつくと、さっきより格段に旨さが上がっている。

 ラビはトラジの肩に身を乗り出し、突如出てきた調味料……マヨに興味を示す。


「何々!? それ旨いのか!?」

「むぐ……めっちゃ旨い! ふふ、お前にもかけてやろう」

 トラジは得意気に、ほとんど残っていないラビのシャクの実にもマヨビームを飛ばす。


「おぉ〜! いっただきまーす!」


 マヨのたっぷりかかった塊を、ラビは大きな一口で放り込む。

 それを口にいれた瞬間、大きく目を見開いたままラビは固まった。


「ん? おーい、生きとるか?」

 まるで反応の無いラビに、トラジはヒラヒラと顔の前で手を振る。


「……う」

「う?」

「うっまーーい! 何これ!? 凄いうまい! もっと食べたい!」


 好評ではあるが異常なほど興奮するラビに、トラジは若干引き気味に笑う。

「お、おう……良かったよ」

「なーなー、もっと食べたい。あっ、そうだ! 口に直接入れてくれ!」

 ラビはトラジにすり寄り、大きな口を開けて待ち構える。


「お前、マジか……直接行くとか、かなりのマヨ狂いやぞ」

「だって美味しいから〜。ほら、早くくれ……あー」

「うっ……ほれ」


 トラジはドン引きしつつも、ラビの大口にマヨを流し込む。

 口いっぱいにマヨを溜めてから、ラビはそれを嬉しそうに飲み込んだ。


「はぁ〜〜、最高! なーなー、もう一回!」

「い、嫌や……お前、何か怖いっ!」

「あ〜、待てよ〜! もっとマヨくれ〜〜!」

 

 一瞬でマヨ中毒者となってしまったラビ。

 異世界でマヨの素晴らしさを実感すると同時に、中毒性にトラジは恐怖した。


 ほぼ裸で爆走するトラジに、執拗に迫り来るマヨ中毒者ラビ。

 徒歩1時間はかかる町まで、2人は約15分で到着したという。

 


 

 

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