5 渇望
翌日から俺は規則正しく生活することにした。
朝から軽くジョギングする。
その時間は20分程度。
「ふひぃ、はひぃ、ひいぃ」
少なすぎるとも思ったけど、自分の身体の限界値から逆算するとこれ以上朝から走ると昼から動けなくなる。
ジョギングから帰ってからはひげをそりシャワーを浴びる。
当たり前のことだけど、そんな当たり前のことすら億劫になっていた。
誰に会うわけでもなく自分では気にならなかったけど相当に不審人物化していたのは間違いない。
小ぎれいにして尚、歩行者からの視線を感じる事があるのだから。
朝のジョギングを終えたら筋トレだ。
筋トレと言っても腹筋運動の一回も出来ない所からのスタート。
まずは1日目は1回を目標に。
2日目には2回を。
3日目に3回。
そして4日目の今日は4回を目標に奮闘している。
「くうううう、はあっ」
ガッシュファルトの時は500回程度を日課にしていた。
それに比べこの身体は……。
食ったのは俺だけど、どこをどうやったらこんなに太れるんだ。
もう、俺というよりも脂肪が歩いているんじゃないかと錯覚してしまう。
食事はネットで調べて、栄養バランスのとれた低カロリー食を母親にお願いして作ってもらっている。
自分で作れれば一番いいけど、料理なんかしたことがない上にこの巨体ではキッチンでも満足に動けないのでお願いするほかない。
ヒキニートの俺には時間だけはある。
焦りはあるが焦ったところで突然スリムになったりすることはない。
お金も高校までのお小遣いがそれなりに残っている。
もともと物欲が多い方ではなかったし、引き籠ってからは使い道もなくほとんど手を付けていない。
高額なダンジョンシーカ―の登録費用は俺の貯金でギリギリいけるはずだ。
あとはこの身体だけ。
前世と思われる記憶がよみがえってから1ヶ月。
朝のジョギングは40分に伸びている。
筋トレもどうにか30回をこなしている。
そして毎日の日課として寝る前には体重計に乗っている。
正直、鏡で見る自分の姿に大きな変化はない。
ただ、体重計に示される数値はマイナス8キログラム。
この一カ月で俺は8キログラム痩せる事に成功した。
少しの運動と少しの食事制限をしただけでこの成果。
達成感よりも、この2年間を浪費してしまった後悔がたつ。
「ひぃ、ひぃ、ひぃ、ふぃ」
8キログラムの成果はまだほとんど感じる事はない。
キツイものはキツイし身体も動かない。
身体的な変化とかは薄いけどこの1カ月でガッシュファルトとしての記憶も随分馴染んできた。
やはり俺は桐谷省吾だ。
多少、物事を前向きにとらえる事ができるようになったし引き籠る気もなくなった。
だけど根本的には俺は桐谷省吾だ。
ただ、ガッシュファルトの記憶とともに引き継いだものがある。
それは欲望。
いや、渇望と言った方がいいかもしれない。
強くなりたい。
敵を倒し剣の頂を目指したい。
そして何よりも女性と付き合いたい。
食欲をも軽く超えてくるその渇望が俺の身体を動かす根源。
恵に振られた俺は、ガッシュファルトの記憶と強く共鳴した。
俺には明確な目標が出来た。
さっさと痩せてダンジョンシーカーになる。
ダンジョンを踏破するくらい活躍して女の子にモテたい。
かわいい彼女を作って人生変えたい。
「うおおおおおおお~」
やる気が漲る。
「ぐううううううううう~」
腹減った。
少しとはいえ運動量が増えたことで、空腹感は以前にもまして強い。
たかが空腹。
されど空腹。
いままでここまで飢えたことはガッシュファルトの記憶にもない。
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