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君を必ず救い出すと約束したから~レスキューイン・シルバーマリン  作者: ユキトシ時雨
ミッション4 全てを救い、約束を果たせ
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再起の咆哮

 哺乳綱鯨偶蹄目マイルカ科シャチ属の海獣。高い頭脳を用いて、鮫や鯨さえも喰い殺す姿は、まさに海洋系生物の頂点と言っていい。


 そして、特筆すべきはその食性だ。


 肉食性であり食物連鎖の頂点でもある鯱は、アザラシやアシカを捕食するイメージが先行しがちだが、その獲物はより多岐にわたる。自らより弱い生物はいかなる例外もなく、彼女らの捕食対象なのだ。


「私は救いなんて信じない。姫は、私たちが護らなくてはならないんだッッ!!」


 無論、その捕食対象には、海中最速を誇る黒鮪さえも含まれる。


 では、その生態を踏まえた上で、飛魚×黒鮪の二重因子を持ち合わせる鋼助と、海の頂点である逆叉鯱の因子を引き継いだ彼女が、真正面からぶつかったらどうなるのか?


 彼女がまたも爪先をスピンさせ、その身を翻すと同時。


 彼女の腰部から発現する器官は、二股に割れた鯱の尾。真っ白なのは、キチン質のブレードを形成する要領で、尾鰭全体を覆っているためか。


 それは巨大な一刀のようで。振り下ろされる斬撃は、まさに純白の刃による一閃であった。


「私の大切なものに、貴様の汚れた指先ひとつ、触れさせてなるものかァ!」


 仮面の向こうで、彼女が吠えている。


 咄嗟に二本のブレードをガードに挟むも、頂点捕食者の一撃に比べれば、あまりに脆弱であった。


 これまで彼女の刃が熱を帯びてきたのも、鋼助の筋肉が躍動から熱を帯びるのとまったく同じ理屈で。彼女自身も、筋肉の収縮によって体内に籠ってしまった熱を、刃を用いて放熱していたに過ぎないのだ。────それだけのエネルギーを内包した尾鰭の一振りが、鋼助の腹を捉える。


 真横からトラックが突っ込んできたような衝撃に、脚の踏ん張りが効くわけもなく。その身は軽々と弾かれ、施設の壁へと叩き付けられた。


 同じような戦略の誘導を、レッドハンマーにもされてしまったばかりというのに。


 彼女は初めから、その赫く燃えたぎるブレードこそが、己の切り札だと見せかけていたのだろう。本当の刃を、ここしかない瞬間まで隠し通し、最適なタイミングで鋼助を切り裂けるよう。


「クソッ……やってくれるじゃねぇかよ。俺は助けに来たって言ってるのに」


「そんな戯言、聞いてやるものか」


 刃をモロに受けた脇腹は、そこを庇護するプロテクターごと抉り取られ、裂けた筋肉の隙間からは止めどなく血と臓腑が噴き溢れる。


 それで惨めに這いつくばる様は、まさに甲板へと打ち上げられた魚のようで。鯱は獲物を捕食する際、その尾を打ち付けるようにして、標的を弱らせるという。────ならば、今の鋼助もまた彼女にとっては獲るに足らない獲物に過ぎないのだろう。


 ベースになった因子からして、生物としての強度が違う。


 逆叉鯱には、撞木鮫のロレンチーニ器官のような過敏すぎるがゆえに、弱点となる器官も存在しない。


 ────であれば、彼女に勝つ手立てなど、あるのだろうか?


「げっほ……」  


 口から漏れるのは赤黒い血の塊で。視界が明滅すると共に、意識の糸が途切れかける。


 失血性のショック症状からか、意識の微睡みが「もう眠ってもいいんじゃない?」と甘く囁いた。


 しかし、



「いやだ……嫌だよ、鋼助さんッ!」



 区画一体に響き渡るのは、アミの悲鳴だ。


 痛々しいその声こそが、鋼助を何度だって叩き起こす。


 そうだ、自分は何のためにここに来た? 「必ず助けるから」と約束もした。アミとも、記憶の中のあの子とも。────こんな海の底までわざわざ戻ってきたのは、その約束を果たすためじゃないかッ!


「うぉぉぉぉぉぉ!!!」


 気合い任せの咆哮。脇腹の傷の再生もままならない状態で、無理矢理にでも上体を起こした。自分にまとわりつくこれが血なのか、汗なのか、はたまた海水なのかさえ判断が付かない。


 それでもなお、鋼助は両腕を前へと突き出す。


「何をしようと無駄だ。貴様にはここから消えてもらう」


「あぁ……そうだよ、無駄だとも」


 飛魚×黒鮪VS逆叉鯱。────そこに勝てる要素があるとは思えない。


 けれど、そもそも鋼助には勝つ必要自体がないんだ。


 あくまでも必要なのは、彼女を否が応でもここから引きずって脱出するための拘束だけで。鋼助は少なくとも、その方法をもう既に知っていた。


「大事なのはイメージなんだって……だったら、俺のイメージするのは、」


 鋼助が纏うプロテクタースーツの用途は先述した通り。防具であると同時に、自らの有り余る膂力と壊れた身体を強引に支えるための矯正ギプスでもある。


 しかしながら、手脚を重点的に庇護するプロテクターにはもう一つ、隠された用途があった。


 目隠し。物理的に視線を遮断し、プロテクターの内側で何が行われているかを対峙したホワイトエッジに悟らせないための。



「やってやろうじゃねぇかッッ!! 飛魚×黒鮪─────」


 ◇◇◇


 鋼助の脳内では、一つのイメージが思い描かれる。


 それは今日まで救命隊員としての自分を鍛え上げてくれた恩師の背中。宝条蛍がその背から発現させ、縦横無尽に振るう大王烏賊の因子である。



蛇腹拘束(ワイヤースレイヤー)ッッ!!」



 プロテクターの内側で形作られたブレードが、一斉に飛び出したッ! しかも触腕のようにうねってみせるそれは、ブレードでありながら、単なるブレードにあらず。


「なっ⁉」


 幾つも小さなブレードが連なり、縦横無尽に振るわれる様は、変幻自在の蛇腹剣のようであって。両手脚から発現した四本のそれは、ホワイトエッジのボロ布を裂き、彼女を絡め取るッ!

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