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君を必ず救い出すと約束したから~レスキューイン・シルバーマリン  作者: ユキトシ時雨
ミッション4 全てを救い、約束を果たせ
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ディープダイバー(1/2)

 鋼助とレッドハンマーの二人は艦橋へと上がる。そこに集まっていたのは、和明を筆頭とする〈こんぺき〉に残った隊員達だった。


「これで全員が揃ったようね。────それじゃあ、皆。あれが見えるかしら?」


 和明が視線をやった先。そこには一層と銀に濁った汚染海域が広がっていた。活性状態にあるバクテリアは粘性を帯び、〈こんぺき〉の船体へと絡みつく。


 かつて人が人を超えるために研究されたRe計画の産物は、いまこうやって蒼い海を悪趣味に塗りつぶす汚点と化している。太平洋中心部の人工島跡────レッドハンマーの情報をもとに辿り着いたのは、全てが始まった場所だ。


「本艦は間もなく、作戦海域へと突入するわ。そこからの救出は時間との勝負よ。総員、覚悟はいいかしらッ!」


「「はいッ!」」


 和明の指示に隊員たちは声を揃えた。


 任務概要は、この海の底に十年間も取り残された被験者たちを保護すること。ただ、それだけだ。


「それじゃ、事前に告知したように、それぞれ三つのチームに分かれてもらうわよ。まず姉崎を中心とする医療チーム」


 今作戦には隊員・救護者共に大きな負傷を負うことが想定される。そこで姉崎を中心に応急処置や救護知識に長けた隊員が船内で待機。迅速な処置を行えるよう設備を整える。


「次にアタシを中心とした護衛チーム」


 ここは汚染海域の中心。バクテリアの濃度も、そこに潜むハイドラの凶暴性も他海域とは比べ物にならない。


 強固な〈こんぺき〉の装甲と言えども、限界はある。救護者全員が艦内に格納されるまでの時間を稼ぐのが、和明を中心にしたベテラン隊員からなる護衛班だ。人数の割り振りも必然的にこのチームが最も多くなる。


「最後に。鋼助チャンとレッドハンマーを中心とした救出チーム」


 救出チームに与えられる役割はさらに二つへと分かれる。一つは海底深くまで潜航し、アミたちを確保すること。もう一つは〈こんぺき〉を見失わないよう誘導する中継役だ。


 しかし、海底深くに潜航し活動できるのは、Re計画の被験者でもある鋼助たちだけ。このチームに割り当てられたほとんどのメンバーは、海中でハイドラとの交戦を避けながら鋼助たちの浮上を待つこととなる。


 作戦の成否はほとんど、鋼助たち二人の肩に掛かっているといっても過言ではない。その重圧に表情が強ばった。


「不安かしら?」


 それに気づいたのか、和明は諭すように言葉を掛ける。


「い、いえ! ただ……やっぱり、少し」


「大丈夫。ワタシたち第六救助隊は人命救助に特化するよう編成されたんだから。それに玄野鋼助隊員。貴方はアミちゃんと約束したんでしょ? 必ず助けるって」


 今、ここに立つ人間は皆、迷いや恐怖を振り切った者たちだ。


 そして、それは鋼助も同じはず。もう同じ後悔を繰り返さないよう、覚悟ならキツく結んできた。


 瞳は微かに紅い輝きを帯びて。その表情は精悍な者へと変わる。


「良い顔になったじゃない。今なら私好みのイイ男に見えるかも」


「ははは……それだけは勘弁してもらいたいですけどね」


「うふふ。ところで、ソレは何かしら?」


 和明の視線が鋼助の首から下へと向いた。他の隊員も一様に鋼助の全身を包む新装備へと関心を向けていた。


「あぁ、コイツですか。取り急ぎドクターに用意してもらったんです」


 耐衝撃プロテクトスーツ。ダイビングスーツの鋼助を包むのは、流線的なシルエットのプロテクター群だった。主に両手足を中心にその全身が固められている。


 大王烏賊の因子を持つ蛍が、触腕にプロテクターを巻き付けているように、EXD手術に加えて何らかの追加装備を用いる場合が多い。


 鋼助のプロテクトスーツは、レッドハンマーとの激戦で会得した完全防護より着想を得た装備だ。その実態はハイドラとの近接に用いられる防具だが、水中の活動においてはデッドウエイトにもなりかねない代物でもあった。


 それでも鋼助が身を固める真意とは、


「コイツはギプスでもあるんです」


「ギプス?」


 一同が小首を傾げる。


 鋼助の飛魚×黒鮪の二重因子が織り為すのは、爆発的な超加速だ。ただ、それは身体への負担を一切無視した諸刃の剣でもあった。


「コレさえあれば仮に力をコントロールし損ねても、余分な衝撃を吸収してくれる。それに衝撃を吸収し損ねても、このプロテクターが折れた骨を固定してくれるんです」


 ────レスキュー活動において、無茶をしたり、命を賭けることでしか誰かを助けられない救助隊員は二流もいいところ。

 

 いつだったか、蛍に教わったことだ。


 骨折前提の装備と言えば彼女からまた叱られてしまうだろうが、それでもこのプロテクターたちは負担を軽減し、最後まで救命活動の場に立ち続けるためのものであった。


「なるほどね。ならアタシからも少しレクチャーしてあげようかしら」


「なんだよ……」


 得意げな態度でレッドハンマーが割り込んできた。


「アタシたちReデザイン計画の生き残りが、自分の中に宿る因子の力を使いこなすコツは、自分になにが出来るかを自覚し、イメージすることよ」


 いまいち容量を得ないアドバイスに、彼女は捕捉を付け加える。


「たとえば、そうね。……アンタはさっきそのプロテクターたちと一緒に酸素ボンベを用意してたけど、それは本来必要ないの。アタシが鮫の牙を再現したり、アンタが飛魚の羽を再現できるのと同じ。アタシたちは皆イメージさえあれば、首辺りにエラを発現できるのよ」


「んな、半魚人じゃあるまいし……」


「あら、それじゃあアタシたちはどうやって、酸素も光もない深海で生きてこれたのかしら?」


「あっ……それもそうか」


 それに鋼助は、無自覚ながらも感覚を掴んでいるはずだ。


 以前に成功させたブレードの分解と、異なる形状への再形成。それは同質の力を持つレッドハンマーを見て、自分にも同じことが出来るのでは? と思案した結果である。


「ほら、イメージして」


 鋼助は自覚する。自分が海水に溶けた酸素だけで活動できると。


 するとどうだろうか。ちょっとしたむず痒さの後で、鋼助の首に魚のエラのような器官が発現した。皆からも「おぉ」と関心の声が上がる。


「ふふん。アタシの言ったとおりでしょ! ほらほら、このレッドハンマー様を褒めたたえることね!」


 どうせ、ここでお礼を渋っても彼女はまた面倒くさくなるからと。鋼助は素直に感謝を伝えることにした。


「ありがとうな、レッドハンマー。これで出来ることが広がった」


「えっ……ちょ、ちょっとタイム! タイム! なんで、いきなり素直になってるのよ!」


 なぜだか彼女は赤いマフラーを目元まで託し上げて、その表情を覆い隠した。


 それになぜだか、一部の先輩から射すような視線を感じる。確か、これはアミと買い物から帰って来た時と同じような……


「はい、そこまで!」


 和明が掌を打った。それを合図に、全員に真剣な表情が戻る。


「総員持ち場に付きましょう。それから────気合い入れて行くぞ、てめぇらッ!」

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