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君を必ず救い出すと約束したから~レスキューイン・シルバーマリン  作者: ユキトシ時雨
特殊ミッション 開かれた瞳と明かされた研究記録
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Reデザイン(2/2)

 Reデザイン計画。────その目的は、いずれ人類が直面するであろう危機に備え、人体の構造を再設計する研究たちの総称だった。


 事実として、人間の身体は貧弱すぎる。


 例えば、第三次世界大戦のあと。核兵器によって破壊され尽くした環境で、人間は生き延びることが可能だろうか? 


 例えば、地球温暖化による大洪水や干ばつ、新種のウイルスによる感染症などに起因した急激な環境の変化に、人体は適応することが出来るだろうか?


 Reデザイン計画は言うなれば、来るべき災禍に備え、人が人であるがゆえの限界を克服するための、新人類創造研究であった。


「まぁ、その実態はただの狂った人体改造やね。倫理的にも大問題のタブーな研究計画や」


「……俺は知りませんよ。……そんな計画なんて」


 そんな悍しいこと、覚えていないどころか、鋼助には心当たりさえまるでない。


 それでも姉崎は淡々とした口調で、その詳細を語るのだ。


「けど、こういう研究自体は、世界中でいろんなことが行われていたんやで。まぁ、そのほとんどが汚染海域とハイドラのせいで、オジャンになっちゃったけど」


 人体の機械化による強化や、遺伝子の組み換え改造に、デザインベイビーの創造。


 倫理や道徳という概念にさえ目をつぶれば、人をより高次元な存在に作り替える研究なんて幾らでもある。


 けれど、それらが実際に行われていたなんて、信じられるわけがないじゃないか。


「表向きにはされずとも他国さんは結構な成果を出していたらしいで。そんな風に水面下で研究競争は荒れていく最中、我が国がこっそりと推し進めた研究こそ、Reデザイン計画なんよ」


 人体より優れたものへ昇華させるのがReデザイン計画の目的ならば。その具体的な概要は、既存の生物の利点を人体に組み込むことで、様々な環境に適応しうるよう、人体を弄り回すというものだった。


「キメラ計画やツギハギ人体改造と言い換えてもええな。様々な生物因子を特殊な培養液によって調整、それを被験者に埋め込んで、データを取る。そんな研究が秘密裏にコソコソと行われてきたんや」


「なっ……」


 もしも自分が特務海上本庁に属する人間でなければ、姉崎の話をきっと「あり得ない空想」だと笑い飛ばせていただろう。


 だが鋼助は既に知っていた。人体に他生物の因子を組み込み、身体機能の機能を拡張する手術を。────彼女の語る人体Reデザイン計画の根本は、因子を埋め込む〈EXD手術〉とあまりに酷似しすぎているのだから。


 自分の中から血の気が引いた。


 サァッと、身体の芯から冷えていくのが分かる。


「知っての通り、日本って国は四方八方を海に囲まれている国や。汚染海域やハイドラという未曽有な生物災害によって、真っ先に滅ぼされてもおかしくはないやろ?」


 日本政府は迫りくる汚染海域の脅威に対し天柱型浄水システム〈みずかみ〉を建造、並びに特務海上保安庁を新設することで難を逃れた。


 さらに〈EXD手術〉を瞬く間に普及させることによって、他国よりも一足早く混乱する情勢を立て直し、対ハイドラのノウハウを確立するに至った。


 しかし、それでは不自然なのだ。


 こうやって改めて振り返ってみることで、この国の対応があまりに早すぎることに気づかされてしまう。


「〈EXD手術〉という技術を早期に完成させられたのは、Reデザイン計画のデータがあったからや。そして、その研究所が置かれていたのが太平洋の中心部に浮かぶ人工島なんよ」


 その場所は重なるべくして、汚染海域の発生源とも重なった。


 見えなかった話の筋道がようやく見えてきた。頭の中で無数に散らばっていた点同士がつながり、一本の線へと変わっていく。


 ハイドラを生み出す原因となったバクテリアの正体が、研究に用いられた培養液の中に含まれる物質だったとしたら?


 そのバクテリアが何らかの事故によって海中に漏れ出し、無秩序に増殖を繰り返したとしたら?


 鋼助は恐る恐るに尋ねる。


「なら……ハイドラが生まれたのは、その計画のせいで。……アミさんたちの正体は、その計画の被験者ってことですか?」


「十中八九、そうやろうね。汚染海域のバクテリアに耐性を持っとったアミちゃんも。〈EXD手術〉みたいな力を使うそいつらも」


 恐らく人工島は既に沈み、海洋生物ベースの因子を持った被験者だけが生き残ったのだろう。そして彼女らは、海の底へと沈んだ研究施設の中で生き続けてきたのだ。


 思い出したのは、レッドハンマーが顔半分を覆い隠していた赤いマフラーと、その下にあった痛々しい縫目の跡だ。


 あれは手術のために顔を切り刻まれた痕だったんじゃないだろうか。


 そして、アミたちがReデザインの生き残りならば、彼女らは汚染海域という災禍を世界中に振り撒いた原因がこの国にあったことを証明してしまう生き証人でもあるのだ。


 保護したアミの身柄を上層部が異様なまでに欲しがったことにも、姉崎が「処分」なんて言い回しをした理由にも合点がいった。


「この国は、上層部を介して、彼女たちごと真実を揉み消そうとしてるんじゃ……」


 それならば、ホワイトエッジやレッドハンマーの襲撃動機にだって納得できる。彼女らは、ただ自らの同胞を奪還しようとしただけなのだ。


 だが疑問が解かれると同時に、また次の疑問が浮上する。


 何故、姉崎はここまで詳細に物事を把握しているのか? 


 国家機密にも違わぬ真実は、〈こんぺき〉に乗り合わせただけの船医が知り得るものではないはずだ。


「……ドクター。……貴方もその計画に参加した研究者だったんですか?」


「ちゃうよ。ウチだってその頃はまだ学生やったし」


 姉崎はあっさりと否定してみせた。言われてみればその通りだ。では、研究の参加者でもないのに彼女がここまでの情報を持っているのか?


 姉崎が両目で鋼助のことを真っ直ぐと見据えた。


 そこには何か違和感がある。決定的に普段と違うような。


「ウチがこんなに全部を知ってたわけはな」


 彼女の〝両目〟が開かれていた。


 普段は眠たげで、閉じっぱなしになっていた左目が今はくっきりと開いて、夜闇の黒をそのまま映し出していたのだ。


「黒い弾頭────CODEブラックミサイル。多分やけど、それが君に与えられた開発コードやろうな。でもって、ウチの正体は、Reデザイン計画のもう一人の生き残りである君を監視するために、この国の政府が差し向けたスパイなんや」

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