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君を必ず救い出すと約束したから~レスキューイン・シルバーマリン  作者: ユキトシ時雨
ミッション3 激突の生物因子! 噛みしめるのは後悔の味
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白の刃、赤の鉄槌(2/2)

 レッドハンマーが臨戦態勢に入る。ホームベースで投球を睨み据える打撃手のように、腰を大きく捻り、フルスイングの構えを取る。


 ここから先へは進ませない。言葉にされずとも、その敵意が伝わってきた。


 大槌の間合いに踏み込めば、彼女は容赦なくそれを振るうだろう。船内の個室は狭く、とても長物を扱いに適した空間とは言い難い。それでも有り余るパワーであの質量塊を振り切れば、何かに引っかかろうともお構いなしに、飛び込んだ鋼助たちの頭蓋を打ち砕くはずだ。


「あれ、来ないの? それともホワイトエッジたちのことなんて追わなくてもいいとか?」


 安易な挑発だ。乗せられるな。


「新人くん。まだ動けるわよね……?」


 蛍が鋼助に寄り添うように立ち位置(ポジション)を移す。レッドハンマーの視線を遮るよう、自らの身体を盾に起動剤を手渡した。


「さっきは失敗しちゃったけど、私の因子の方が捕縛や鎮圧には優れてる。それに海中での活動経験だって私の方が上。だから君には一瞬、アイツに隙を作って欲しいの」


「隙……ですか」


「ほんの一瞬でもチャンスがあればいい。私がアミちゃんを取り返してみせるから」


 蛍の表情は緊張でキツく結ばれていながらも、今までの経験から裏打ちされた自信に満ちていた。ならば、鋼助が頷かない理由もない。


「任せましたからね。絶対に彼女を助けてください!」


「ふん、誰に言ってるつもりかしら?」


 鋼助も起動剤を摂取。


「ッ……」


 注射針を刺す、僅かな痛み。次いで襲ってきたのは、心臓が暴れだすようなあの感覚だ。


 ドクドクと心臓が早鐘を打ち、全身に眠る二種類の因子を呼び覚ます。


「来たッ! 来たッ! 来たッ!」


 筋肉が肥大化し、体温が上がっていくのを感じた。両腕の皮膚を突き破り、形成されるのはヒレを思わせる一対のブレードだ。


 飛魚×黒鮪の二重因子が鋼助の中で起動する。


「……よしッ! いけるッ!」


 靴裏をキツく床に噛ませ、飛び込むための姿勢を整える。


 以前のように滑空をするにも、個室一個分と通路の横幅だけでは、助走をつけるための距離が足りない。


 だが、脚力任せに飛び込むだけならば────


「作戦会議は終わったようね。最初の獲物は貴方かしら?」


「素直に獲物になってやるつもりもねぇよ」


 吐き捨てると同時にスタートを切った。鋼助の身体は一気に間合いを詰めて、弾丸のようにレッドハンマーへと迫る。


「真正面からの特攻なんて、芸がないのね」


「さぁ? ソイツはどうだろうなッ!」 


 敢えて、両腕のブレードをセールのように逆立てる────


 途端に刀身の分だけ空気抵抗が増加、鋼助の速度にブレーキがかかった。さらにブレードの角度を調整することで、風圧を受け、上体が急下降する。


 そうして、うつ伏せのようになった鋼助の頭上を、振り抜かれた大槌が掠める。


 頭上をなぞる風圧からでも、その威力の一端を感じることはできた。少しでもブレードの角度調節やタイミングを見誤れば、今頃は自分の頭が潰されていただろう。


「ッ!」


 その小さな見てくれからは想像もできないパワーと、なんの躊躇なく大槌を振り抜く精神性は確かな脅威だが。レッドハンマーの一撃を避けて間合いに飛び込んだ以上、流れは鋼助にある。 


(狙うのは、コイツじゃない!)


 黒鮪の馬鹿力で足元を殴りつけて、振動を起こしてやる。それでレッドハンマーがバランスを崩せば、彼女をその場に組み伏せ、拘束できる。もし、それが叶わずとも、作れる隙は大きいはずだ。


 だが────殴りつけた鋼助の右拳は、そのまま勢い余って大穴を穿った。床板がまるで飴細工のようにひしゃげ、下へと抜け落ちたのだ。


「なッ……⁉」


 その威力に、殴り付けた鋼助自身が一番驚愕した。


〈こんぺき〉は細部に至るまで、浸水やハイドラの侵入に備えるよう頑強に設計が成されている。小さな穴を一つ開けるにしたって、専用の機材がなくては不可能なはず。鋼助の振り抜いた拳は、それを力任せに突き破ってしまったのだ!


「ッッ……なんだよ、さっきの威力は……それにここは、」


 真下に位置するのはエンジンルームだった。纏わりつく蒸気に、じんわりとした汗が鋼助の額を伝う。


 殴りつけた右腕には、焼けるような痛みが残っていた。力の反動か。それとも他に何か要因があるのか────


「……痛った……頭打っちゃったじゃん」


 レッドハンマーも額を抑えながら立ち上がる。


「まさか床をブチ抜くなんて……けど、落とす場所までは考えてなかったようね。ここは船の心臓ともいえる場所でしょ? アタシを入れちゃったら不味くない?」


 今の自分は、因子の力をコントロールしきれていない。それを悟られまいと鋼助は、咄嗟に口を紡んだ。


 だが、そのリアクション事態がほとんど答えになってしまったらしい。元より心理的な駆け引きは苦手なんだ。


「あれ? あれ、あれ? あれぇ? もしかして自分でもここまでやるつもりはなかったとか? もしかして満足に能力も扱えないとか?」


「ッッ……関係ねぇだろ。アミさんは蛍先輩が必ず助けてくれる。なら、俺はテメェをここで捕まえればいいだけの話だろうがッ!」


「うーん、それもそうなのよね。……少なくとも貴方を倒さなきゃ、アタシはここから逃げ出せないわけだし」


 エンジンルームは強固な鉄扉によって固く閉ざされている。それに船員のほとんどは蛍に続きホワイトエッジの追跡か、事態の把握に努めているはずだ。


 ここからは正真正銘の一対一。先に目の前の敵を倒した方が、ここを出られる。


「……というか、さっきのイカのお姉さんの目は青くなってたのに」


 レッドハンマーの黒かった眼の色が変わっていく。


 奇しくもそれは鋼助と同じ、鮮血のような〝紅〟である。


「なんで、貴方はアタシたちと同じ色をしてるの?」

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