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君を必ず救い出すと約束したから~レスキューイン・シルバーマリン  作者: ユキトシ時雨
ミッション2 ボーイミーツガール!? 銀海よりの使いは何者か?
12/26

要救護者は名無しの姫君(2/2)

「はぁぁぁぁぁ⁉」


 助け出した少女は記憶喪失だと。


 そう告げられた鋼助は、驚愕し、思わずそんな声を上げてしまった。


「どういうことですか、隊長⁉」


「落ち着いて聞いてね。実はすでに一度、アタシと姉崎の二人で、眠り姫チャンの聴取を行ったの。彼女の方が鋼助チャンより起きるのも早かったし、容態も安定してたから。けれど、彼女はほとんどの質問の答えを『わからない』としか答えられなかった」


 どうしてハイドラの殻の中に居たのか? 


 その特異な体質は何なのか?


 それどころか、彼女は自分の名前さえも答えられなかったという。


「眠り姫チャンの記憶に関する件は、アタシから貴方に順を追って伝えるからって、ドクターには黙っていて貰ったの。ほら、病み上がりの鋼助チャンにとってもショックの大きい話だろうから」


 それでも鋼助は、次の言葉を詰まらせてしまう。


 少女と鋼助が意識を失い眠っている間、医務室を尋ねた〈こんぺき〉の乗組員は多い。皆がその様態を気にかけていたのだろう。だからこそ、ほとんどの乗組員は彼女の回復を喜び、記憶喪失だと判明した直後は言葉を失ってしまったのだ。


 増して、鋼助は彼女と同様に記憶を失った過去を持つ。


 自分のことさえも分からなくなってしまう不安と、大切なものを失ってしまったような喪失感を、他の誰より理解している鋼助だからこそ、なお更にやるせなさを覚えてしまった。


 それを見抜いた和明は、すかさず軌道修正をかける。


「話を戻しましょうか。それで眠り姫チャンの件だけど、」


「やっぱり……やっぱり、どうしても、彼女の身柄は引き渡さないとならないのでしょうか?」


 躊躇いながらも、鋼助はそう口にした。


「というと?」


「彼女の身柄を抑える理由が真っ当であるのなら、説明の一つや二つくらいあっても良いでしょ! それなのに異例の措置まで下して、ついには『口外を禁ずる』なんて一文。これで、彼女の今後がどうなるかと思うと、心配じゃないですか!」


 上層部は一方的に要求を突き付けるばかりであり、その理由についても、引き渡した後の少女の身柄をどう扱うかも説明していない。


 組織を信用できないわけではないが、それでも彼女はまだ様態も安定していない救護者なのだ。現状の説明では、彼女の扱いが不当なものに思えてならなかった。


「なるほどね」


 和明の眼差しが鋭さを増す。


「つまり、鋼助チャンは、上からの命令に背いてでも、眠り姫チャンの身柄を引き渡すのに反対なんだ」


「そ、それは……」


「確かに、アタシもこの要求は理不尽だと思う。けど、上もこんな理不尽な要求を出さざるを得ないとしたら? 例えば、眠り姫チャンの正体がすごーく悪いテロリストで、その一件は内密に処理しないと後々、国際問題に発展するリスクもある。今はどこの国もハイドラや汚染海域周りの事情でピリついてるからね。一触即発、下手したら開戦なんてことも十分にあり得るの」


 和明の想定には、敢えてオーバーな誇張が為されているのだろう。


 少女の正体が不鮮明である以上、その可能性がゼロと言い切ることだって出来ない。


「けど、そうじゃなかったとしたら……」


「どちらの可能性も相応にある以上、このタラレバ話はいつまで経っても終わらないのよ」


 ヒリつくような緊張が二人の間に滲んだ。


 互いに押し黙ったまま、睨み合うようにして数秒が流れる。けれど────



「あの!」



 今、静寂を打ち破ったのは鋼助の頭に響いた声と同じ。銀鈴のようにクリアで、若干の震えが混じったような、あの声だ。


 隊長室のドアが開かれる。その向こうにあるのは、きめの細やかなブロンドヘアー。大きく見開かれた蒼色の瞳。まさしく話の渦中にいた少女が、扉の向こうに立っていた。


 彼女の唇は緊張でわずかに震えていた。


「お話は聞かせていただきました」


「なっ……どうして、君がこんなところに⁉ ドクターのところで眠ってたんじゃ⁉」


「コースケくん」


 不意に鋼助は名前を呼ばれた。


 コースケ。────たかだか四文字程度の発音だ。それなのに、舌足らずにも思えるようなその呼び方は、鋼助の中に奇妙な既視感(デジャヴ)を残した。


「なんで俺の名前を…………」


「えっと……コースケくんで読み方は合っていますよね?」


 彼女が指を指したのは、自身の胸元。隊服に入った金糸の刺繍を読んだだけのことだった。


 彼女は違うと、人違いだと頭で分かっていても、思わず落胆してしまうのは何故だろうか。


 ヒタりと、裸足のまま。彼女は鋼助の方へと詰め寄る。


「私、助けて貰ったお礼を言いたかったんです! ……だけど、目が覚めたらコースケくんは席を外してて。……それで、」


「それでドクターの目を盗んで船内を探していたら、偶然にもアタシたちのお話が聞こえて来ちゃったってワケね」


 和明が彼女の方へと、鋭くしたままの視線を向けた。


「救護者のストレスになるような発言は控えるべきっていう建前は分かるんだけどね。もう、この際だからぶっちゃけるわ。────アタシはね、貴女をさっさと上層部にでも何でも引き渡すべきだと思ってるの」


 面倒ごとはごめんだと、そう言いたげに和明は手を払ってみせた。


「それに、こんな可能性だってあるわよね。貴方には何かやましい背景がある。その背景を隠すために記憶喪失のフリをしている、なんてね」


「そ、そんなことはありません! 私は本当に、何も分からなくて……」


「けど、それも証明できないじゃないの」


 ピシャリと浴びせられた言葉に、彼女は口を噤むことしか出来ない。


「私は……私は、」


 当然だった。何も分からないのは彼女も同じはずなのだ。いきなり身に覚えのない疑いを掛けられて、何も分からない自分にはそれが否定できなくて。それで不安に駆られない訳がない。


「待って下さいよ、隊長ッ!」


 気付いた時にはもう遅かった。ほとんど無意識にデスクを殴り付け、鋼助は声を張り上げる。


「やっぱり俺は納得がいきません。可能性がどうであれ、要求の真意と、引き渡した後の彼女の待遇を説明されない限り、引き渡しに応じるべきではないと思いますッ!」


 なぜ、自分がここまで引き下がらないのか。


 彼女が記憶の中の誰かと重なってしまったから。はたまた彼女が自分と同じ、記憶喪失で情が湧いてしまったから。どちらの理由も、少なからず自分の中の何処かにはある。


「俺は所詮、半人前のぺーぺーに過ぎません。ですが、俺がここに居るのは、助けを求める誰かを救う為です」


 けれど先述した二つ以上に、何よりも強く鋼助を突き動かしているのは、自らが抱いた矜持だった。


「彼女が助けを求めてくれるのなら、俺はそれに全力で応えたい……だから、彼女の身柄をこのまま上層部に引き渡そうとする隊長の判断にも反対しますッ!」


「あらあら。それが鋼助チャンの答えなのね」


 和明は短く頷いて、キツく結ばれていた表情を緩めてみせる。


「けど、やっぱり。貴方なら無理も承知でそう答えるんだろうと思ったわ」


 思えば、和明が厳しい物言いに豹変した際には違和感があった。


 救護者のことをないがしろにするような発言を、第六救助隊の長たる彼がするわけがないのだから。


「……あの、もしかして……俺のこと、試してました?」


「そうとも言うわね。『貴方が眠り姫チャンを匿いたいのなら、その責任もアタシが取ってやる!』くらいのことは上司として言ってあげたかったんだけどね。けど、事が事だし、アタシだけじゃ庇いきれそうにもなかったから」


 先程までの厳しい態度とは別人のように、申し訳なさげな顔をする。


「眠り姫チャンもごめんなさいね。意地悪なことを言ってしまって」


「い、いえ。隊長さんが謝ることは! ……そ、それよりもお顔のそれは?」


 少女が恐る恐る尋ねる。


 和明の強面には、いつのまにか女児アニメのお面が装着されていた。どうやら、緊張を解そうと用意されたプランは未だ健在であったらしい。


 鋼助は耳打ちで「あれは気にしなくていい」と、そっと諭した。


「けど、そうと決まったなら、二人にはある事をやってもらわなくちゃならないのよ」


「ある事……ですか?」


「わ、私にできることがあれば、なんでもお手伝いを!」


 神妙な顔で切り出した和明に二人は重い息を飲む。



「実は二人には明日、デートに出かけてもらいたいの」



「「……はい?」」 

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