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第3話 賄賂

「理瑞様の葬儀は明日執り行われるようですよ」


 明衣がそう告げると、樒は部屋の奥で力なく頷いたあと顔を上げた。


「やけに早くありません?」


 明衣も頷く。


「そうですねぇ。もっといえば、鎮守が鬼の肉を食って亡くなるなんて異常ですよね」


 人間が鬼の肉を食べたら死ぬことはわかっているが、鎮守は鬼の瘴気に侵されなかったはず。

 樒が顎に手をやった。確かに不審だったらしい。


「私たちの種族のなかで、鬼の肉を食べられない者なんていませんよ。部位に好き嫌いはありますけどね。私は脚や手が好きなんですが、許婚は脳髄が好きなんです。まあ、脳髄は割と人気なんですよね。でも私は脳髄は苦手で……ぶよぶよした感じが……でも食べて毒になることはありません」

「……」


 なんと突っ込んでいいかわからず、明衣は口をつぐんだ。


「でも、鎮守にとって鬼の肉が毒になるとかはありませんよ」


 それを聞いてふと思いついたことがある。


「誰かが毒を塗り込んでいた?」


 樒は「えぇ」と首を傾げた。


「どうやって? あの場で毒を塗り込めたの、私しかいませんよ。それに私たちの種族に毒なんか効きませんよ。私は結婚が嫌で服毒したことがありますけれど」

「あるんかい」

「ぜんぜん効きませんでした。むしろ翌日気分が爽快で……許婚と仲良く桜の咲く庭を遊覧してしまい」

「一生毒飲んでれば……?」

「それも手ではありますかね。こんなに鬱屈した気持ちから解放されるなら」


 真面目に樒が考え出すものだから、明衣は白目になった。



 翌日寺社奉行所へと向かった明衣は、報告書を作成していた。


「あ、そういえばあの鬼……」


 非番だったのでかかわらなかったが、理瑞が食ってあたったあの鬼は誰が調査したのだろう。

 明衣は気になり、ほうぼうに聞いて回った。

 曰く、


「知らんなあ」

「知りませんね」

「え? その方が調べたんじゃないの?」


 とのこと。


 明衣は呆れて物が言えなかった。


 そこに、勘定方(会計係)の夏野がやってきた。穏やかで人の良さそうな彼は、帳簿を持ちながら答えた。


「あれ? 鬼は鎮守六家に回収されたんじゃなかったかな」

「え?」


 明衣が目を丸くしていると、夏野は「詳しいことは知らないけどさあ」という。

「毒を持つ特別な鬼だからって回収されてたはずだよ。それから、柳染家、ちょっと怪しいね」

「怪しい?」

「うん。亡くなられた理瑞様。理瑞様のところから、白藤宗水様にかなりの額の金や進物が渡っている。なにかの見返りを期待した……いわゆる賄賂……かもしれない」


 帳簿を渡された。

 去年辺りから、何回かに分けて目眩がするような額の金品が白藤宗水に渡っていた。

 

「あり得ます!?」


 明衣は夕餉の鰆をつつきながら樒に聞いた。


「一度お会いしただけですが、あんな明るくてカラッとした人柄の理瑞様が賄賂に手を染めるなんてありえないと思いません?」


 樒は食が細く、鰆には手を付けずにひたすら漬物ばかり食べていた。


「……叔父上が賄賂をもらうのは有り得そうなことです」


 叔父上。鎮守六家の筆頭白藤家の当主の宗水は樒の叔母の夫にあたる。そのため彼女は彼のことを叔父上と呼んでいた。


「あの方、清濁併せ呑むお方ですから」

「ふーん」

「でも、理瑞様が賄賂を渡す理由が私にはわかりかねます……」


 そっか、賄賂を渡す理由か、とうつむく樒を見て明衣は思った。


「そういえば理瑞様って柳染家でどういう立場なの?」

「……私も詳しくは存じ上げません。親しく行き来していたわけではありませんから。たしか、柳染家当主蓉香様の弟君だったと思います。素行が悪いとも聞いたことはありません」

「そうですねえ。それだけだと、賄賂と結びつかないわね」


 そういいながら、柳染家に行ってみようかと明衣は思っていた。

 彼女はじっくり家のなかで考えるより行動したほうが性に合っていた。

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