ep53：断末魔
「何をしているお前たち！ ヴァルムート人の誇りはないのか！！ 今すぐ、裏切り者を殺せ！！」
攻撃をしかけない九機のゼルク戦闘機に対して、ロウゲンの怒声が飛んだ。すると覚悟を決めたのか、一機が降下を始めると二機三機と後に続いた。
「くっ、くるぞサリア……今までのグリムに対する戦い方と同じでいい。中に人がいることは気に掛けるな」
私に向けた言葉だが、アレン自身に言い聞かせている部分もあるのだろう。対グリムの時とは違う緊張感が走る。
私がイレイズを放てば、人の命が消えてしまう……
そんな思いが拭えないないまま、五機のゼルクが迫ってきた。グリムの時と違って、射程圏外と思われる距離からルクスを放ってくる。やはり相手も人間、死に対する恐怖がそうさせるのだろう。
そして、それは私も同じだった。
イレイズで消し去ったのは三機のみ、その内の一機は機体の半分しか削り取ることが出来なかった。そのため、激しく血を吹き出しながら、断末魔の叫びを上げる兵士を見ることになってしまった。
「アレンっ！！」
アレンの名を叫ぶミレルの声に振り返ると、アレンが仰向けになって倒れている。アレンのもとへと駆けつけると、ハルキも隣にやってきた。
「だっ、大丈夫かアレン？」
「す、すまん……一機逃してしまった、後を頼めるかサリア……」
首元に被弾したのだろう、耳の下辺りから大量の血が吹き出している。
「こ、これは酷いな……アレンは俺が先生の元へ連れて行く。一人で大丈夫か？」
私は無言で頷くと、再び降下してきた三機のゼルクと向かい合った。
もう、敵を消し去ることしか考えない……
今度しくじると、誰かが死ぬ……
「サリア！ こちらはタイミングを見てアブソルヴェールを張っている！ 私たちのことは気にしなくていい！」
「わ、分かった、先生！！」
先程の断末魔が頭をよぎる中、私は夢中でイレイズを放った。
