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「彼女とはただの友達だよ。
妹みたいなもんだから、心配しなくてもいいよ」
そう言ってシャーリンの目の前でダニエルは笑っていた。
「そうです~、私とダニーは単なる友達なんですぅ、婚約者さんちょっと心狭くないですかぁ?」
ダニエルの横で彼の腕につかまりながらリリカはそう言って笑っていた。
(なんで友達同士なのに距離が近いのよ!
しかもダニーって愛称で呼ぶとか、ありえなくない??)
シャーリンはそう思ったが、特には何も言わずに黙っていた。
言ったところで皆から「心が狭い」だの「信用してないのか」だのシャーリンの方が悪いように言われるだけなのだ。
剣術クラブ案内の後から、ダニエル達は5人で行動していた。
別行動をするようになった友人達に理由を聞いたりしたようだが、リリカ本人の前でリリカと距離を置きたい、とは言えず、クラブが忙しくなったから、などと言い訳をしたようだ。
納得はできなかったが、仕方がないのだろう、とダニエル達は思った。
そして、リリカの態度が変わっていった。
シャーリンに会うと、見せつけるようにダニエルにベタベタするようになったのだ。
シャーリンが少しでも嫌そうな顔をすると、
「シャーリン様、ごめんなさい、そんなに睨まないでください~」などと言って泣いて見せるのだ。
その度にダニエルがシャーリンに苦言を呈す。
「リリカはただの友人だ。
どうしてひどい態度をとるんだ?」
(自分の婚約者にベタベタされたらいやな顔するに決まってるでしょうが!!)
そう思うのだが、反論はしない。
一度反論してみたところ、
「俺の事を信用してないって事なのか?」
などと頓珍漢な返事が返ってきたうえに、
「男女の友情を認めないなんて心が狭いな、シャーリン嬢は」
「そうそう、リリカの距離感はちょっとおかしいだけなんだから広い心で見てやってよ」
などと援護射撃が入る。
あまりにも馬鹿馬鹿しくなって、シャーリンは討論クラブに入会した。
男女の友情とはどこまで許すのか、をテーマにして白熱した議論をしたという。
「シャーリン、怒りをもってく方向が変よ」
友人たちからは苦笑されたが、その後も、男性から見た女性と女性から見た女性の違いをどう分からせるか といったテーマを出したりしてうっぷん晴らしをしていた。
シャーリンのその熱心さが伝播したのか、討論クラブ外でも同じテーマで話がされるようになった。
政治や経済などと言ったお堅いテーマではなく、身近なテーマだったことから話しやすかった事もあるのだろう。
ダニエル以外の3人は、周囲から苦言を呈され、ダニエルやリリカ以外と話をすることで、自分たちの行動が少しおかしいと思い始めたようだ。
シャーリンの前でリリカがベタベタしていると、注意をしてくれるようになったのだ。
「リリカ、ただの友人ならダニエルの腕に絡まるのはやめろよ」
「ダニエルも婚約者の前で他の女性にくっつかれて何も言わないのは良くないぞ」
「シャーリン嬢、不愉快だろう?ダニエルに用があるなら俺が伝えるから無理に話しなくてもいいんだよ」
(昨日の敵は今日の友って事かしら。
味方になってくれてるって事よね、良かった)
仲間から注意をされ、ダニエルは慌ててシャーリンに謝ったが、リリカは拗ねて横を向いている。
(もう今更よね、遅いって~の)
シャーリンは3人にお礼を言うと「ダンスクラブがありますので」と言ってスタスタと歩いて行った。