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「シャーリン昨日の事だけど」
刺繍クラブにむかう廊下でダニエル達に呼び止められた。
「ごきげんよう、ダニエル様」
「どうして昨日はリリカを無視するような事をしたんだ?
初めから自分の友人にそうするように言っていたのか?
だとしたらそういう意地悪はやめたほうがいい」
(何を言い出すかと思えば・・・)
シャーリンは呆れてしまった。
「おい、ダニエル、昨日の事、お前はシャーリン嬢の意地悪だと思ってんの?」
昨日剣術クラブに残った友人がそう反論してくれた。
「始めからちゃんとリリカに話を振ってくれていたじゃないか」
「聞いてなかったのか?」
「え?いや、でも」
「なんだよ、勝手に帰った事を謝るのかと思ってたのに」
「シャーリン嬢、引き留めてすまなかったね」
「いいえ、それでは」
シャーリンはそう言ってスタスタと立ち去った。
残されたダニエル達はまだ何かを話しているようだった。
しばらくはダニエルから何も言われることもなかった。
相変わらずリリカと一緒に行動をしている。
だが、今まで一緒に居た数名の令息たちが別行動をとるようになっていた。
彼らは剣術クラブや乗馬クラブにも参加しているらしい。
シャーリンに会うと会釈をするくらいの仲であるが、シャーリンの友人からそれぞれのクラブでの様子を聞いている。
彼らは初め、それぞれのクラブにいる令嬢と話をしなかったのだが、同じ趣味仲間という事もあり、次第に打ち解けていったらしい。
「令嬢がこんなに乗馬用具にこだわりがあるとは」
「ご令嬢、馬の産地から好みの馬を選ぶだなんて、素晴らしい趣味だよ」
「何?あの鍛冶屋にそんなすごい裏技をたのめるとは」
「ご令嬢!ザパネトダカタ製の磨きブラシも使ってみてくれ、すごく使いやすいぞ」
男女関係なくそれぞれのクラブで楽しんでいるという。
そして、疑問を持つのだ。
「リリカとこんな話をしたことはない」
「リリカは剣術と乗馬が好きだ、と言っていたが、こんな楽しい会話をした事がない」
そして例外なくこう言うそうだ。
「リリカは変だ」と。
そもそもリリカと一緒に居たのは、リリカが他の令嬢となじめない、と泣いたからだ。
彼らは学園に入るまで他の令嬢と交流したこともなかったし、社交界デビューもしていない。
令嬢との適切な付き合い方も知らなかった。
もちろん、貴族として当たり前のマナーは学んではいたが、見ると聞くでは全く違う。
そして、入学して早々にリリカから泣きつかれ、一緒に行動をしていたのだ。
だが、剣術クラブでの出来事を境に、リリカが変だと気がつき、距離を置くことにしたようだ。