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シャーリンとダニエルは婚約した。
互いの父親が仕事上で意気投合し、年齢が一緒だから、という事で見合いをしたのだ。
その時にお互いに好印象をもち、婚約することになった。
シャーリンとダニエルが婚約して1カ月が過ぎたころ、友人に紹介したいと言われ、食堂でお茶をすることになったのだ。
その時に男性の中に一人だけ女性がいたことにシャーリンは驚いていた。
ダニエルいわく、リリカは乗馬や剣術と言ったあまり女性受けしないモノが趣味で、話の合う令嬢がいないのだという。
他の令嬢達からも奇異の目で見られて肩身が狭く、それを聞いたダニエル達がリリカを仲間に入れてあげたそうだ。
それからリリカはこの集団と行動を共にしている、という事だそうで・・・。
(変なの)
シャーリンはそう思った。
乗馬が趣味の令嬢はシャーリンの友人の中にもいるし、剣術好きな令嬢も少数だが存在しており、彼女たちは自分たちでクラブを作って趣味を楽しんでいる。
大抵の令嬢は自分の趣味のクラブでそれぞれの趣味を楽しんでいるのだ。
それなのに、リリカは話ができる令嬢がいないという。
ダニエル達はそう言ったクラブの存在は知らないらしい。
リリカ以外の令嬢と話したりしたことがなかったようだし、婚約者のいる令息も、婚約したばかりとかで、まだそんなに話をしてない事もあり、情報を知らなかったようだ。
余計なお世話かと思ったが、シャーリンは一応リリカにクラブの存在を教えてあげた。
「へー、リリカ以外の令嬢でも乗馬好きな人がいるんだ」
「ええ、乗馬クラブで男女問わずに楽しんでいるそうですわ」
別の令息が驚いたように質問をしてきたので、シャーリンは丁寧に答えた。
「剣術好きな令嬢って、騎士目指してるって事?」
「いいえ、彼女たちは単に剣術が好きで、剣を磨いたり、自分の身を守る程度の稽古はしますが、そこまで本格的に鍛えているわけではありません。
中にはもちろん騎士を目指す方もいらっしゃるみたいですが」
「令嬢が剣術に興味があるなんて初耳だよ」
「そうですか?男性でも刺繍が趣味ですとか、園芸が趣味なんて方もいらっしゃるじゃないですか。
男女関係なく趣味は人それぞれなのでは?
ですからリリカさん、もしよろしければ乗馬でも剣術でもクラブの方をご紹介しますわ」
リリカは一瞬ギリッとシャーリンを睨みつけたが、
「そうね、せっかくだから紹介してもらうわ」
あまりうれしくなさそうにそう言った。
数日後、シャーリンはリリカに自分の友人たちを紹介した。
「リリカ様、乗馬に興味がおありなんですって?」
「・・・ええ、まあ」
「どの産地の馬がお好みですの?」
「・・・別に」
「あ、ああ、そうですのね、今日は乗馬クラブがありますからご一緒に行きましょう」
何故かリリカは大きなため息をついてきたのだが、シャーリンの友人はリリカを案内してクラブへ連れて行った。
「シャーリン、ごめんなさい、リリカ様あまり乗馬に興味ないみたい」
次の日にそう言って友人に謝られてしまった。
「どういうこと?」
「それがね・・・」
友人の話によると、リリカは乗馬クラブに来てもずっと下を向いていたらしい。
しかも、学園で飼っている馬を見ても喜んだり、興味を持つ様子もなかったという。
他の令嬢が馬の名前を教えたり、自分の乗馬用具を見せたりと、いろいろ話しかけてみたのだが、まったく返事をすることもなく、疲れたから、と言って帰ってしまったという。
「学園の馬だと好きなタイプの馬が選べなかったからかしら」
そういう友人へ、気にしないようにと言ってリリカを案内してくれたことについてお礼を述べた。
その日の放課後、図書館へ行こうと廊下を歩いていると、ダニエル達の集団に出会った。
「シャーリン、ここにいたのか」
「ええ、今日は読書クラブの日で図書館にいくところです」
「少し話がある」
「少しなら大丈夫です、それで何か?」
「リリカに紹介した乗馬クラブで彼女はひどい目にあったそうじゃないか」
「は?」
「君の友人の令嬢はクラブに連れて行っていきなり馬を買えと言ったんだって?
それに、他の令嬢達も自分の持ち物の自慢ばかりだったとか。
何故そんな意地悪なやつに案内をお願いしたんだ」
「そんな性格の悪い令嬢と友達だなんて、シャーリン嬢も早く縁を切った方がいい」
「持ち物自慢だなんて、はしたない事をするな」
(この人たちは何を言っているんだろう)
シャーリンは呆れてしまった。
リリカの話を聞いて一方的に怒るだなんて、と。
「私の友人はそんな意地悪はしておりません。
『どこの産地の馬が好きか』と尋ねておりましただけです。
他の令嬢もどの乗馬用具が好みかと話をされただけみたいですわ」
「だが、クラブの他の令息たちに紹介もしなかったそうじゃないか」
「案内してくれた友人にお礼も言わず、声をかけてくれた令嬢に名乗りもしない状態で他の方にどうやって紹介するのですか?」
「でもリリカは悲しかったと言って泣いていて」
(それって私に関係ある?ないわよね)
「そうですか、リリカ様、お役に立てなくて残念でしたわ」
ダニエル達の後ろで下を向いていたリリカにそう声をかけてシャーリンは図書館へと歩き始めた。
「おい、シャーリン!!」
「クラブに遅れてしまいますので、それでは」
スタスタと歩いていくシャーリンに、ダニエル達はそのままリリカを慰めながら帰って行ったようだ。