行動開始!
7日間。頭を空っぽにして、ひたすら体を鍛えた。
身体強化を使って、パルクールまがいのことができるようになった。
木刀の素振りがそれなりに形になってきた。
正拳突きがまあまあ勢いづいてきた…気がする。
魔法をフルに使いまくって体を鍛えたから、普通よりは成長スピードが早い。
柔軟も、はじめは90°くらいまでしか開かなかった足が、今は140°くらいは開く。肩の可動域も少し広くなった。
何より、スタミナが一番伸びた。疲労回復の魔法使いまくったせいで継続力がうなぎのぼり。
よし。
「出かけよう!」
準備は整った。アスレチックも昨日解体済み。何より、私のアイテムは全部回収した。
カバンを肩から提げる。仕込み杖を持つ。チョーカーをつけて、ハイネックで隠す。長い髪は横髪を残して後ろでひとまとめ。
服や靴、手袋など、表に出ている装備一式は、自動洗浄の魔法をかけた。破けたら素直に修復しようと思う。
山を下りよう。
そう決めたのはいいけど、正直どうしよう。
目印のない森の中で真っ直ぐ歩くのは至難の業だ。遭難した時に下手に移動せずにとどまった方がいいのはそういう理由があったりなかったり。
方位磁石でも出そうかな?いや、この世界の磁場が祖国と同じとは限らないし、そもそもどっちの方角が下かもわからない。
ゔぁーーー昨夜良い方法思いついたハズなんだけどなー。一晩寝たら忘れちゃったわ。
とりあえず、川の水を水筒(お手製)に入れてから行くか。貴重な飲水だ、一日しか持たないにしても、なんなら魔法で出せるけど、お守り代わりに持っておくにこしたことは――
川!そうだ川だよ!
思い出した、川下に進もうってアイデアを思いついたんだった!
川の近くって人が住みやすい環境だから、川を辿れば自動的に集落に出るはず。
うん、このアイデアほんと天才的。忘れてた私のオツムはともかく。
思い出したし日が暮れる前に移動を始めよう!
***
ちっさい不可視の結界を張りながら移動する。
獣の声、葉っぱの擦れる音、息を吸い込めば森と土の匂い。
うーんどこまでも自然。川の見える範囲で獣道を進む。
革靴じゃないやつにしてよかった。スニーカーではないけど、滑りにくい靴底と柔らかい生地。新品だけど足に優しい。
三角尻尾も尖った耳も隠してるけど、尻尾出してたらゆらゆら揺れてたんだろうな。
サバイバルのはずなのにサバイバルにならない確信があるからただの散策になっちゃってるんだよな。付近の生物の動きがわかるサーチの魔道具作っちゃったから余計に。
…うん?近くに見たことないマークの動きが…
「…あんた、こんなところで何やってるんだ?」
ガサッと低木をかき分けて出てきたのは、鎧を身にまとって剣をさげた若者だった。
うん、見た目からして定番の、
「冒険者のお方でしょうか?」
「あ、ああ…あんたは?」
「ただの旅人ですよ」
「そうなのか?その見た目から迫害されて追い出されたか、その身なりから貴族がはぐれたのかと…」
ああ、この見た目ってこの世界だとかなり上質なものなのね。まあ見た目が良いからこのまま押し通すか。
「残念ながら、高貴な血など一滴も流れていません。ただの旅人ですよ。ただ少し迷ってしまって…」
「そうなのか」
「だから川を辿って街を探そうと…」
「近くの街まででよければ案内するよ」
「いいんですか?」
「仲間と合流して護衛するから一緒に行こう。見返り期待してるぜ」
あ、この人いい人だ。
本当の悪人ってのは見返りの存在を匂わせずに、全て終わった後に法外な見返りを求める。
こんな軽く、ウインクを添えて言う人って基本本気では求めてない。無償でやるつもりはないけど、無いものは受け取れないとわかっているタイプの人だ。
「ありがとうございま」
「で?あんた名前は?」
「はい?」
「だから名前。ずっと『あんた』って呼ぶわけにもいかないだろ」
あー名前か。考えてなかったわ。どうしよ。
たしか、オリヴィアの名前って平和と知恵の象徴Oriveが元ネタだからOriviaなんだよな。
なら――
「…Oriver。オリバー・ノーベルです」