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翌朝

「人狼の件に関しては、本当にありがとう。感謝しているよ、オリバー・ノーベル殿」

「それはどうも」


 クッッソ(ねみ)ぃ。こっちの世界の時計を見たことないから私の懐中時計基準になっちゃうけど、5時半くらいまで起きてたってのに朝七時くらいに叩き起こされたんだけど。全部終わったら二度寝しようかな。

 必死にあくびを噛み殺しながら、貴族——伯爵だっけ?の言葉を待つ。


「……」

「……」

「…聞かないのかね?」

「え、何をですか」

「人狼の処分についてだ」

「あぁ…」


 口を手のひらで隠してあくびをかましながら、お貴族さまに向かって言う。


「別に、興味ないですよ。話し合いの果てに結局殺処分になろうが、私はお金を受け取って街を出るだけです」

「わざわざ、君が助けたのに?」

「そいつが数多の被害を出したのもまた事実でしょう。それ相応の権利を求めるなら、責任も果たさなくては」


 まあ私は責任を果たしたくないくせそれなりの権利を求めるクズだから、冒険者ギルドに登録だけして悠々と旅人ライフを送ってるわけですが。この実力だと勇者のスカウトは避けられなさそうだから、そこは避けて。


「…君は相変わらず、礼儀正しいのか無礼なのかわからない奴だな」

「苦情があるならギルドにどうぞ。今回の依頼では素行に関して何も言われなかったもので」

「構わないさ。やるべきことはしてくれたし、今更印象がどうということもない。それで、だ」


 姿勢を正してこちらに前のめりになる彼に影響されて、私も思わず背筋が伸びる。


「私の下で働く気はないかね?」

「お断りします」

「だろうね」

「…無礼だなんだは聞きませんからね」

「知っているさ。頭ごなしに否定しないと、貴族はつけあがるからね」

「自虐ですか?」

「さあ、どう思う?」


 うーわ、やりにく。ネットでギャンギャン騒ぐアホの方が話してて楽だわ。あっちは煽ってれば勝手に面白おかしく自爆してくれるから。



 人狼は、結局あの後逃げ出した。

 街中の人が非難する中、私は一人、欠けた噴水に座って朝まで待っていた。


『——来たぞ、白いニンゲン』


 朝日が昇る頃にそう言って現れたのは、ゴワゴワした毛に覆われた耳と大きな尻尾を持つ、獣人の青年だった。

 昨夜の人狼かと聞けば、簡易的な治療のみが施された私の左腕を見て、苦々しげに「そうだ」と言った。


 それを見た私は、彼の腕を引いて、ギルドに引き渡したのだ。

 だから、その後のことは一切知らない。



「まぁ、なんとなくわかってはいたがね。少しは私なりの優しさも含んでいたのだが」

「優しさ、ですか」

「ああ。君は強大だ。いや、あまりにも()()()()()。勇者にすら匹敵するような存在が、どこの国にも属さずにふらふらと渡り歩いているとなると——」

「理解はしていますし、一応覚悟の上です。確か、勇者は魔人との対立の筆頭として祭り上げられる関係上、各国のどこにも所属しておらず、同時に各国のどことでも友好な関係を築く、と」

「言い方に多少棘はあるが、まあそういうことだ。逆に言えば、勇者……()()()()()()にその対応をせざるを得ないほどの力を、彼は持っている」

「…」


 椅子を鳴らして、彼は続ける。


「君は知らないだろうがね、魔人やらなんやらが出てくる前は、国だとか、人種だとか、宗教だとか、人間の集団で争っていたんだ。今は一見一つにまとまっているように見えるが、それも仮初でしかない。何千何万もの人が徴兵されて、武器を持ち、殺し合いをする。そんなこの世の地獄のような光景を、人間が作っていた時代があったんだ」

「……えぇ、そうでしょうね」

「一騎当千、なんて言葉もあるが、所詮は人間だ。武器に優れていようが、魔法に優れていようが、どれだけ突出していても、存在のみで他国を脅かすような存在は現れない。現れない、はずだった」

「…………」

「でも——」

「言わなくて結構です」


 その先なんて、言われなくてもわかっている。

 よくある転生チート系では、敵対組織から危険視されて味方からはもてはやされることが多いけど。


 世の中、二分化できるほど単純じゃないんだ。


 武器を持たせればありとあらゆる敵を穿つ。魔法を放てば威力も精度も申し分なし。この世界にない発想とその発想を現実にできる技術を持ち合わせる天才発明家で、法律にも人権にも常に新しい——私で言う現代的な——思想を持つ活動家。

 それらを全て一人で賄う存在がいたら、この世界の国の一つや二つ、簡単に揺らぐだろう。


「私は、極力誰の味方もしたくはありません。ですが、受けた恩は返しますし、気に入った相手が不当に侵されるようなら守ります」

「だろうね。つまり、全ては君の気分次第というわけだ」

「ええ」

「それは、」


 まっすぐ、見据えるように私の赤い瞳を見て、彼は茶色い目を細める。


「君が思っている以上に、大きな責任が伴うのだよ」

「……何がお望みですか」

「私の下に——と言いたいが、残念なことにこれは私のただのお節介だ。君は無茶をしがちな青年のような一面があるから、つい構ってやりたくなる」

「そーですか」

「拗ねないでくれよ」


 少しほっぺたを膨らませて口を尖らせれば、困ったように、親戚の子どもの駄々でも見るような顔をされる。


「さて、報酬の話に戻そうか。これが、約束の金貨20枚——」

「はい」

「と、仕事ぶりによる上乗せ50枚」

「はい???」

「迅速な対応だったから、当然だろう?」


 この人……サディストか?私を困らせて楽しんでる節がある気がすんだけど、気のせい?

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