依頼内容、ヨシ!
おはようございます、おはようございました、おやすみなさい。
あ゙ぁ゙〜起きたくないよ〜〜ずっとこのふかふかベッドさんで寝てたいよ〜〜。
でも私が昨日「起こして」って言ってしまっていたから、ゆきうさが私の腕の中から逃げてぼふんぼふんぶつかってくる(なお痛くない)。
あ゙ーごめん、わかったって。おはようございます。
洗面所で歯を磨いて、顔を洗う。髪を梳かして髪ゴムを結ぶ。ランドリーに預けておいたコートを取りに行って、袖を通す。他の洗濯済みの着替えは異空間収納に突っ込む。
掛け布団を直して、椅子も元の場所に。メモで一筆残して(「ありがとうございました」っと)、カバンをかける。
はい、出発しましょうか。
***
早々にギルド行ったら「はい、お待ちですよ」と即案内されました。やっちまったぜ。
ちくしょう、できればそっちより先に到着したかった!ただの旅人(戸籍ナシ)でありながら貴族を呼びつけておいて後から悠々と来るとか印象最悪やろがい!!
まあ、後悔先に立たず。これでも朝起きてご飯食べて割と急いで来たし、約束の時間前だし(言い訳)。そのままいくか。
「…失礼、お待たせしてしまいました」
「いや、本当についさっき来たんだ。貴君より先に到着したかったんだが、思いの外ギリギリだった」
「そうですか…」
これは…どっちだ?嫌味か、心からの言葉か。嫌味なら「時間前に来てよかった」とか言いそうだし、そのままの意味で捉えても良いのだろうか。
「さっきからいろいろと考えているらしいが、まずは腰を下ろしたらどうかね」
「…では失礼します」
これは基本、目上の人相手だと指示があるまで座らない。面接でもあるよね、こういうの。高校受験でやったわ。
相手を無視して堂々と、どっかりと座るのは、「自分がこの場の主導権を握っている」と受け取られかねない。相手は貴族、それ相応の知識や威厳、権力を持つ者。油断しないにこしたことはない。
「さて…では、依頼の内容を」
「ああ。今回、君――オリバー・ノーベルに依頼したい内容は、人狼の駆除だ」
「人狼?」
私が眉をひそめれば、机の上に広げられる地図とイラスト。
…鳥獣戯画かな?西洋風ではあるけど、画風がなんか…うん。
「現在は、辛うじて被害は家畜のみにとどまっているが…それでも被害は計り知れない。明日は我が身と震えて眠れない夜を過ごす住民がほとんどだ」
「人狼というと――」
「ああ、魔人の仲間だ」
仲間っつーか同族っつーか。まああれもあくまで人間側の見解だから違う可能性も多々あるけども。
「小型の魔物ならば現地の住民でも対処可能だったのだが、人と同様に後ろ足のみで歩き、剣も弾き返す毛皮に守られた存在となると…」
「…厳しい、と」
「そこで君の出番だ」
地図をトントンと叩いていた指先をこっちに向けて、彼は続ける。
「君は鎖を使って戦うだろう?剣で切れずとも、矢が通らずとも、息ができなければ生物は死ぬ。その鎖で締め上げれば、人狼も倒せるのではないだろうか、というわけだ」
なるほど、私を名指しするにも一応理由はあるわけか。武器を見てたのね。
まあ、相性ってどうしても出てくるもんだからなー。仕方ないっちゃ仕方ないか。
「…わかりました、依頼は受けましょう」
「そりゃよかった」
「で?いくら出るんです?」
「報酬の話かね?」
「ええ、事前に色々と聞いて、直筆のサインと共に約束しておきたいので」
だって気になるじゃん。やっすい金額で使いっぱしりにされるのも、高い金額提示されてすっぽかされるのも嫌だし。ハーメルンの笛吹き男になるつもりはないよ。
「本当に慎重だね、君は」
伯爵はそう笑うと、執事っぽい人が持つカバンから一枚の書類を出した。
「まず、前金で銀貨10枚」
「ほお…は?『まず』?」
銀貨って、確か10000円くらいの価値じゃなかったっけ?つまり前金で10万。
は???
「そして、依頼を完了したら、報酬に金貨20枚」
「ちょっ、はあ!?」
この世界の通貨制度は実にシンプル。
約1000円の銅貨、約10000円の銀貨、そして約50000円の金貨。下には、一回り小さくて四角い小金貨(約100円)、小銀貨(約10円)、小銅貨(約1円)と続く。丸い貨幣は日本で言うお札、四角い貨幣は小銭のイメージだ。日本の貨幣よりかなり大雑把だけど。
ちなみに、更に上の白銀貨や白金貨もあるけど、桁が大きすぎるから割愛。
いや違う、重要なのはそこじゃない。金貨20枚ってことは、50000×20=…
ひゃくまんえん。
…100万円!!?
「まっt、待ってください!おかしい、絶対におかしい!」
「ふっ、ふふ…」
「お貴族様が、一介の冒険者にッ、払っていい額ではないでしょう!!」
思わず音をたてて立ち上がると、そんな私を見てクスクス笑う伯爵。いや笑うなし!笑い事じゃねーから!!
「笑わないでください!!」
「いやすまない、金額に驚くだけならまだしも怒るとは。君は本当に善良だな」
「額わかって言ってます?冒険者がこれだけ稼ぐのにどれだけかかると思ってるんですか?!」
いやほんまに。
冒険者ってのは意外と出費が多い。その日の宿代に食費、壊れたり破けたりした道具類を修繕したり買い直したりもするし、怪我や病気には相応の処置や薬が必要になる。街を移動するならその分の蓄えも要る。
つまり、稼いでもソッコーで消える。それが冒険者で、貯金なんて雀の涙程度。
なのに110万ですか?おかしいにゃ〜やべぇ額だにゃ〜(お目々ぐるぐる)。
まずい、これはまじでハーメルンルートあるかもしれん。
「分不相応な対価は我が身を滅ぼします。もう少し少なく、せめて半額に…」
「非常に残念だが、これは現地の住民らが必要経費として送ってきた金額の一部だ。住民らもこの額で同意しているから、私ではなく彼らを説得してくれたまえ」
終わった…。
これあれじゃん、伯爵が私の要望聞いて減額したら住民さんらが「伯爵が差っ引いて懐に入れたのでは?」ってなるから意地でも減額しないやつじゃん。現地の人たちの信頼が欲しいから、私を通して潔白な自分をアピールするためにもこの額で進めるやつじゃん。
「…わかりました。その金額で進めましょう…」
「よかった、断られたらどうしようかと」
嫌味か?今度こそ嫌味だな???打てば響く、質問すれば返される、そして出てきたのはこんな良待遇。断るのもなかなかにおかしい。
話に乗った時点で蜘蛛の巣にかかっていたモンシロチョウ、とでも言えばいいのだろうか。私の今の状況は。
貴族がわざわざ、一般の冒険者を雇う?そんなこと、普通はありえない。裏に何かしらあると考えるのが普通だ。
例えば、その土地における、他の貴族との影響力争いとか。
「…ずるいお方だ」
「褒め言葉として受け取って良いのかな?」
「お手上げです、負けました」
「なんのことやら」
政には関わりたくなんてない。影響力も持ちたくはないし、どこかの組織の下なんてもってのほかだ。
それでも私は、完全に正攻法で打ち負かされた。惨敗だ。
「さて、話もまとまったところで」
サラサラと契約書にサインをして、こっちに手渡してくる。
無記名の、もう一つの署名欄。そこに、「オリバー・ノーベル」と書け、ということだろう。
細かい文字がないか慎重に確認をして、今の名前を書く。
はあ…翻訳魔法の魔道具完成させておいて本当によかった!
「これで、契約成立です」
「ああ、よろしく頼むよ」
差し出された、男の人らしい大きな手を、私の白い手でとった。




