旅には、別れは付き物ですから
「…もう行っちゃうんですか?」
「ええ、まあ」
ぶっ倒れて、その後回復して、更に五日ほど過ごして。
荷物をまとめた私は、緑風メンバーのお見送りを受けていた。
「本当に30日…いや、それより少ない期間でしか滞在してませんけど…」
「まだ教えること、教えられることいっぱいありますよ!剣術も体術もまだまだ下の下だし!」
「ゔっ」
「文章だってまだダメな部分多いし」
「ゔぅっ」
…まあ、それはド正論ですが。
「…私は旅人です。やりたいことがあろうとなかろうと、移ろう存在ですから」
「でも…」
「この街に居ることでもう一回倒れても困りますしね」
「それは自重してください」
まあ気をつけますよ。大丈夫。
…たぶん。
「いいですか、街を移動したら、ギルドに行って、『現在住所』の変更をするんですよ。そうしないと、オリバーさんにこの街の…マルキアでの依頼が届きますから。それと、食器等を使う際には、汚れが少なくなるように使うこと。もし洗うなら焚き火の灰を水で溶かして使うこと。野営をする時は、手荷物は盗まれないように体の下に敷いて寝てください。あと…」
「ボルカ、止まれ止まれ」
「息子を送り出すお母さんかお前は」
めっさ心配してくれてら。食器とか野営に関しては魔法でチートできるからまあいいけど。
…でもそっか、街を移動したらギルドに登録し直さないといけないのね。
「重々、承知しております…」
「あっこれどれか忘れてた反応だぞ」
「いや守る気がないやつじゃね?」
「よしボルカもっとやれ」
「出発できないんですが!?」
マジで出発させてくれ!!ああほらゆきうさも勝手に行かないで!
不満たらたらでもダメ!ばいんばいんしてもダメだから!!
「…うさちゃん暴れてるし、その辺にしといてあげたら?」
ナイスネロさん!!魔道具の件といいありがとう!!
ゆきうさは、この街の皆さんには「うさ」って名前で浸透した。普通に可愛いしめっちゃ懐くしで警戒も解けたらしい。
だからまあ、私と一緒に旅立つって知った時の顔はやばかったけど。
「それじゃあ――オリバーさん。無理言って、長期間の滞在をさせてしまってすみませんでした!!」
ジャックさんがそう言うと、緑風メンバーが「すみませんでした!」と一斉に頭を下げた。
一瞬慌てたけど、野球なんかの試合終わりの一礼に見えた瞬間、嘘みたいに焦りが消えた。
…そうだよね。「親しき仲にも礼儀あり」って、言うもんね。
「…こちらこそ。長い期間での滞在を許してくださって、様々な知識を、技術を、何よりあたたかい日々を与えてくださって――本当に、ありがとうございました。お世話になりました」
そう言って、深々と礼をする。ゆきうさも真似っ子で、くりっとその身を傾けた。
そんなゆきうさが可愛くて、思わず緑風と、彼らと笑ってしまった。
「…行っちゃったな」
「ああ」
青年たちは、オリバーがかなり遠く、見えなくなってからようやく口を開いた。
「にしても、本当にもったいない才能だよな〜。あの魔法の才があれば、宮廷魔道士にも魔法部隊の指揮官にも、魔道具の第一人者にもなれるだろうに」
「わざわざどの国にも属さずに放浪する旅人とはねえ」
「何か罪を犯して逃げてる、とか?」
ネロがそう言った瞬間、他三人は一瞬固まる。
そして、爆発したように笑い出した。
「あっはははは!あの人が罪人?ないない!」
「お前、助けてもらっただろ〜」
「…だよな!ないよな〜」
「そうそう。
たとえ嘘まみれの大嘘吐きでも、それだけはないだろ」
「! お前ら…」
「気づくって。ネロも気づいてただろ?」
「……」
「あったとしても、どうせ他の悪人に誑かされたか、罪を押し付けられたかだろ。あの人が望んでヤるような人に見えない」
「あとはあれか?超えてはいけないラインを超えられてブチギレたとか?」
「あーそれならありそう」
軽口を叩きながら、「それでもあの人はないよなぁ」という結論に至って彼らは笑う。
穏やかな風が、草を揺らして吹き抜けていった。