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やっちまったぜ

 そして、約二週間。


 牧場で解体を覚えさせてもらって、

 居合い切りがしたいからとそれ専用の特訓もして、

 もちろん基本的な剣術や体術の訓練もして、

 一般知識の勉強もして、

 おまけの時間でこの世界の地図の読み方も学んで、

 ついでの魔道具の開発もして、





 ぶっ倒れました。



「すみませんおかみさん…こんなことでベッドを占領してしまい…」

「いいのいいの、前にも言ったかもしれないけど、こんな街なんて来る奴そうそういないし、あんたはきちんと稼いで宿代支払ってるんだから」


 でもこういうお宿ってお昼の滞在禁止とかあるのに…。


「追い出すなら追い出すで、ッケホ、構いませんよ…全然、テントで…」

「治るモンも治んないよ。ほらデコ出しな」


 前髪をかき上げると、冷えた水で濡らしたタオルが乗せられた。あっ気持ちい。

 こんな世界でも頭寒足熱は基本なんだなぁ…。

 おかみさんは膝の上にゆきうさを乗せて撫でている。え、ゆきうさ寝てる?めっちゃ懐いてない?


「じゃあ、水そこに置いてあるから。ちょこちょこ飲みな」

「はい…」


 「あんたが見といてあげて」とゆきうさを一撫でして、おかみさんは部屋を出ていった。

 誰もいなくなった部屋で、ゆきうさは私のベッドに飛び乗ると、枕元に来てぽふんとすり寄ってきた。


「…濡れちゃうでしょ。こっちおいで」


 タオルで濡れても嫌なんで、胸の上に乗せて撫でる。軽いから息苦しくもならない。



 にしてもなんだかなあ。無理しすぎたのかな。

 だってこの世界、ゲームもマンガもネットも無いんだもん。暇潰しと言えば私の私生活を豊かにする魔道具制作か、私の好奇心を満たす学習くらいしかない。

 …その結果頭がオーバーヒートしてこのざまですか。はーあ。


 頭が痛い。身体がだるい。喉がカサカサする。

 風邪かなぁ。それとも、この世界独特の病気なのかしら。

 後者な気がする。祖国(にほん)で風邪にかかった時とは多分違う。



 タオルがひんやりして気持ちいい。ゆきうさが乗っかってる部分があったかい。

 カーテンの隙間から射す陽の光を見ながら、眠気に抗うことなく目を閉じた。


***


「寝てる?」

「ほらもう少し静かにしろメル、起きちゃう」

「どうする?りんご、皮むいとく?」

「切ってはおこうぜ」


「………ん……」


 ヒソヒソとした話し声が聞こえて、うっすらと意識が浮上する。


「あ、起きちゃいました?」

「いえ…大丈夫ですよ。そろそろ水を飲まなくては…」


 上半身を起こせばゆきうさは膝の上らへんに移動して、ボルカさんが「俺がやりますよ」と言ってくれた。


「ありがとうございます」

「うわ声カッスカス」

「体調どうですか?」

「頭が割れそうです」

「タオル変えますね」


 ゆきうさがぴょんぴょん近寄るのを順繰りに撫でながら、私の看病をする四人。

 いや、ほんとありがたいけど申し訳ないわ。元も子もないこと言ったら赤の他人なのに。


「りんご食べます?」

「いただきます…」

「皮は?ウサギみたいにします?」

「全部剥いてくださるとありがたいです」


 くるくると綺麗に剥かれた皮をゆきうさがシャクシャクと食べていく。

 いや、可愛いけど、釣りされてるみたいで可愛いけど、どこに消えるんだ食った皮。余すことなくエネルギー化して消えるのか?

 あと口どこなん?



 四人と軽く会話して、三人が帰った。

 そう、三人。


 ネロさんは、残った。


 世間話のように、魔法とアイテムについて教えてくれた。

 まあ、「魔道具」と「魔法具」の違いだ。魔法の効果を発揮できる魔道具と違って、魔法具は別に特別な効果を発揮するようなものじゃない。使うことで魔法を発動できるのが「魔道具」、ちょっとした加護というか、錆びにくいとか壊れにくいとか、そんな感じのちょっとした効果がついたのが「魔法具」だ。


「へえ、そんな違いがあったんですね」

「そうですね。…だから、これは、『魔道具』にあたります」


 そう言って彼が取り出したのは――私の、コンパクト。


「!」

「これ…魔石でしょう?軽く見ただけだと、宝石の飾りが付いたただの鏡ですけど…」

「…それ、は」


「…俺は、何も言いません」


 そう言って、彼は私の膝にコンパクトを乗せる。


「……」

「どんな効果があるのかも、絶対聞きません。オリバーさんのこと、信用してるから、これ以上の追求もしません」

「……」

「ただ、注意してください」


 変身、見た目を変える効果を持つ魔道具を普段から使っていることは、余計な追求を生みかねませんよ。

 逃亡中の罪人なのか、後ろめたいことがあるのか、とかね。


 そう言って、彼もまた、部屋から出ていった。


「……」


 無言で俯く私を心配したのか、すり寄ってきたゆきうさを撫でて、私は横たわる。


 寝よう。

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