最終話 この先も
その後の第四試合は辛くも勝利を収めたが、決勝戦ではあっさりとローレンス先輩に負けてしまった。復讐が終わったことで、気が抜けてしまったのだと思う。
私たちは準優勝となり、今回の昇格試験は終了した。
後日、というかその日のうちに両親が王都まで駆けつけ、他国にいたはずの兄も飛んできた。それからは学院に戻らず、しばらく王都のホテルで生活する羽目になったのだ。
両親の過保護ぶりは酷かった。
いや拍車が掛かっていると言ってもいいだろう。こうなるのが容易に想像できたので、黙っていたのもある。
(でもヴィンセント先輩と出会ってから、自分で道を切り開く勇気を貰った。私は……)
そこでヴィンセント先輩に返事をしてなかったことに気付く。いや、どさくさに紛れて好きだと言ったけれど、ノーカンだろう。
改めて返事を返したい。
仕切り直しだ。
(その為にも、両親と兄を説得しなくては!)
我ながら逞しくなったと思う。
***
「ヴィンセント先輩!」
「──!?」
次にヴィンセント先輩と出会えたのは、昇級試験から一ヵ月が経った頃だ。
(王都から離れた郊外の街で、なんとか見つけることができてよかった!)
旅装束の先輩は祖国に戻るため、《竜駱駝》を選んでいるところだった。
私は呼吸を整える。
「ヴィンセント先輩、私も一緒に行きます!」
「シンシア……」
砂漠の国に行くつもりで、それに合わせたターバンや外套を羽織って、大きめの鞄を持ってきている。
(ローレンス先輩に今度会ったら改めてお礼を言わなきゃ!)
「どうして……」
「復讐が終わったら、答えを言うって約束したじゃないですか!」
「だが、君の父君と兄からはいい顔はされなかった」
儚げに微笑むヴィンセント先輩を見て、父と兄に手紙を送るのは当分辞めようと心に誓った。
「そんなの関係ないです! 私はヴィンセント先輩が大好きですし、それ以外の方と……こ、恋をするつもりも、婚約もしません! 両親が認めないのなら駆け落ちだって考えてしまうぐらい、真剣に考えてここに居ます!」
「え、駆け──、好き、婚約、恋」
ポッとあっという間に頬を赤く染めるヴィンセント先輩に、私まで顔が熱くなる。こんな風に感情を揺らしてくれる先輩が好きだ。
ずっと一緒に居たい。今回の旅路も母が手伝ってくれたし、父と兄を後で叱ってくれるとも約束してくれた。
「それに先輩の故郷で《死者の宮殿》の封印が解けているのでしょう? 私にも手伝わせてください!」
「どうしてそれを……。あ、ローレンスのやつ」
先輩は頭を掻きむしって、舌打ちをする。
真っ赤な顔を誤魔化すようにしながらも、前髪を掻き上げた。すると彼の雰囲気がガラリと変わる。
「まったく、危険かもしれないからシンシアには黙っていたのに。それにやっと誤解が解けて楽しい学院生活が待っているのに、血みどろの戦いに付き合う必要はない。もっと有意義な時間の使い方を──」
「先輩と一緒にいる時間はとっても有意義です! こ、婚約したら内輪事にできるのなら、私、今すぐにでも先輩と婚約します!」
「な、こんや──!」
かつてないほど私なりに頑張ったほうだと思う。ヴィンセント先輩は嬉しそうに口元を綻ばせながらも、理性と戦っている。
あと一息だと、自分の勇気を振り絞って口を開いた。
「ヴィンセント先輩、私は先輩に恋をしてしまったのですが、迷惑でしたか?」
しょんぼりと俯く。そうだと言われたら泣く自信はある。
「あああああああーーーもう。こっちの気も知らないで! 迷惑なんかじゃない! そこまで言うのなら、もう私から逃げられると思わないことね! 私、シンシアがいないと駄目な体になってしまったのだから、責任、とってちょうだいね!」
「駄目な体にしたのは、先輩のほうなのに……」
「──っ、またそうやって新しい顔を私に見せて、どれだけかき乱すつもりなのかしら」
「その言葉、そっくりそのままお返しします! どうしてそんなに素敵で、優しくて、私の心を温かくするのが天才的に上手いのですか!?」
「──っ」
ヴィンセント先輩の腕の中に囚われ、ギュッと抱きしめられる。
先輩の色香と甘い香りにクラクラしそうになった。
嬉しくてこの喜びを伝えようと、背伸びをして頬にキスをする。
「先輩、大好きです」
「──っ」
自分でもいつのまにこんなに積極的になったのだろう。
きっとドロドロに甘くて、時に厳しくて、温かいこの人がいたから──私は自分の中にある恋という花を咲かすことができた。
初恋は実らなかったけれど、次はきっと私の心の中に花畑を築いてくれるだろう。そんな予感がした。
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