97話 止まない危機
「さて、次の信号弾へ向かおう」
「ああ」
2つ目の信号弾が上がった方へ向かう。近くに行くと最初と同じように、どこからか声が聞こえた。
「たすけて……たすけて……」
「これは……」
助けを求める声か、魔族の罠か。
「こういう声を聞くたびに魔族か人かを疑わなくちゃいけないの、結構嫌だね」
「そうですね……ですが、無視はできません」
「そうだな。こっちだ、急ごう」
声の方へ向かうと、戦闘を行ったような形跡が残っていた。周囲に人の気配はない。
「たすけて……たすけて……」
声はうわごとのように同じ言葉を繰り返し続けている。こちらが呼んでも変わらない。
「……魔族だな」
「だね。準備はいいかい?」
「ああ」
オレ達は努めて無警戒なふりをして、声のする方へ向かう。予想通り不意を突くように飛び出してきた魔族は、想定通りに攻撃を空振りをして、予定通りにアザレアが転ばせた。そのまま拘束して、オレが背中に乗り、首に剣を突き立てる。三体目ともあればある程度感覚はつかめていて、さほど苦労せずに倒すことができた。
「これで、すべて倒せたのでしょうか……」
「今のところはそう信じるしかないな」
ひとまず信号弾の位置にいた魔族は処理できた。他に隠れていなければ、これで終わりだ。
「これからどうする?」
「いったん屋敷に戻って皆に伝えないとね」
最初の魔族を倒してオレが呆然としているときに、エノクは『屋敷へ集合』という意味の信号弾を上げていたらしい。
「そうだな。一度戻ろう」
そうして屋敷に戻ろうとしたその時。
「……!!」
再び空に、赤い信号弾が昇った。方向は……最初に魔族を倒したあたり?
「どうしてあちらの方から……」
「……ヤバい」
「エノク?」
エノクの顔から余裕が消える。
「殿下たちが危険だ、急ごう」
「!?なんで殿下が……」
「集合信号って上位指令だから傭兵は従わないといけないんだけど、それを無視していい人がいるんだ。皇太子なんだけど」
「そういうことか……!」
殿下はディオンと精鋭の傭兵数人と共に行動している。殿下自身が強く、さらにディオン達までいるのだから、余程問題はないと思うが……。
急いで赤い信号弾の方へ向かうと、聞き覚えのある声が聞こえ始めた。
「まだ戦闘中のようだね」
「急ぎましょう!」
声の方へ向かう。戦っているということは少なくとも無事ではあるはず。……そんなオレの希望を打ち砕くようなことが起こった。