91話 ひとまずの安心
「皆様、よくぞご無事で……!」
屋敷の扉を開けると、ガブリエル嬢が迎えてくれた。
「ただいま、ヤフェ。心配させてしまったか?」
「……はい。とても、心配したのですよ」
いつもは毅然としているガブリエル嬢がそんなことをいうものだから、オレとアザレアは勝手に驚いていた。
「おっと……。お詫びに熱い抱擁を交わしたいところだが、今はそれどころではないな」
殿下はガブリエル嬢の向こうを見やる。屋敷には多くの怪我人がいた。軽い怪我から、寝たままの人まで……。動かない手を握り、泣いている人もいる。ガブリエル嬢が咳ばらいをした。
「状況をご説明します」
オレ達が出発してから暫くして、予定通り魔物が現れた。最初は特に問題なく対処できていたのだが、魔物が少しずつ強くなり始めたのだという。それでもガブリエル嬢たちや傭兵の尽力で何とか持ちこたえていたのだが、やがて門を破られ、魔物の街への侵入を許してしまったのだそうだ。
「早い段階で避難をさせたこと、傭兵の皆様が限界まで救助をしてくれたおかげで、多くの人を匿うことができています。ただ……傭兵たちに多くの犠牲が出ました。そして、すべての人を助けることはできていません……」
ガブリエル嬢は、俯き、握った手を胸ている。
「今動ける者達で救助隊を結成しましょう。幸い、魔物は滅魔の炎で殲滅できていますから。指揮は任せてください」
「……畏まりました。動ける者を選定しますので、皆様はお待ちください」
ガブリエル嬢はエノクの提案に一瞬何かを言いかけたようだったが、すぐに毅然した態度に戻り、離れていった。
「ヤフェさんに悪いことしたかな」
「俺に悪いことしたとは思わないんだな?」
エノクの言葉に、殿下は冗談めかして応える。
「待ってろって言ったら怒るくせに」
「は……ヤフェもお前も俺のことをよくわかっている」
やや複雑そうな表情で、殿下は小さく笑った。
「今のうちに生きてる人たちに顔を見せてきます。二人は休んでいてください」
「わかった/わかりました」
エノクと殿下は怪我人達のもとへ向かった。
「ディオンやモアハヴァ嬢たちを探しに行こう」
「そうね。きっと、みんな無事だよね……」
近くの人に話を聞くと、どうやら別室にいるらしい。伝え聞いた部屋に向かった。