9話 変わっていく景色
鳥の声で目を覚ました。窓の外を見ると、外が少しだけ暗い気がする。どうやら随分と早くに目が覚めてしまったようだ。一日しっかり休んだおかげか体の調子はとてもいい。せっかく早起きしたのだし、多めに勉強しておこうと本を手に取った。一通りの文字を読めるようにはなったものの、まだ読むのには時間がかかる。それなら、とエノクがくれたのは子供向けの童話だった。内容についてはともかく、確かに文字を読む練習には丁度いい。なので、エノクがいない間はこうして童話を読み進めている。この本は、建国の伝承のようだ。
むかしむかし、わるいどらごんがせかいじゅうのみんなにわるさをしていました。
こまってしまったみんなは、かみさまにおいのりをしました。どうかわるいどらごんをこらしめてください!
かみさまはごにんのにんげんにちからをあげました。かみさまにちからをもらったごにんは、ちからをあわせてどらごんをたおしました。
ごにんのなかまたちは、これからもみんなでせかいをまもろうとやくそくしたのでした。
5人の仲間とはミカエル、ウリエル、ガブリエル、ラファエル、そしてヘレルの5つの家門のこと。ウリエルとラファエルは滅門し、現在は皇家であるミカエル、公爵家であるガブリエル、そして伯爵家であるヘレルだけが残っている。
「エノク・ヘレル」……彼は英雄の末裔と言うことだ。
神とはエロアのことで、多くの人が信仰している。エロアの誕日は祝日になっているらしい。悪いドラゴンは……よく分からない。天災をドラゴンに見立てたのか、本当に世界中に混乱をもたらしたドラゴンがいたのか……今となっては知る余地もない。
なんにせよ、過去の英雄も神様も、獣人たちを救ってはくれなかった。「みんな」の中には獣人は含まれていなかったらしい。……この世界について知れば知るほど、不条理だと思うことばかりだ。
でもオレには手を差し伸べてくれた人がいた。彼はオレが世界を変えると言った。オレに、何ができるのだろう。本をしまって窓を開けた。外はすっかり明るくなって、鳥たちはいっそうやかましく鳴いている。騎士たちはグラウンドを走り、女中達は洗濯物を干している。何もしなくても変わっていく景色を、しばらく眺めていた。
1話でしれっと描写しましたが、この世界の獣人は普通の人間にケモ耳と尻尾が生えているだけです。
そんな獣人たちをこの世界の大多数の人間達は物扱いしているようです。
怖いですね。
追記
誤字を見つけたので直しました。ルークがカタコトになってました。
追記2
特大のミスを見つけたのでなかったことにしました。




