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福音と甘言  作者: はまみ
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84話 恋のお悩み

84話

それからしばらく後、アザレア嬢を部屋に送るため、二人で歩いていた。辺りはいつの間にか暗くなっており、夜風が穏やかに草木を揺らしていた。

 オレ達は所謂恋仲というものになったわけだが、とはいえいきなり何かが変わるわけでもなく、これまで通り、と俺は思っていたのだが……


 「ルークくん、一つお願いがあるの」


 「はい、なんでしょう」


 「敬語をやめて、呼び捨てで呼んでほしいの」

 

 こちらを見上げるアザレア嬢を見ていると、何でもしたくなる。今までよく気付かないふりができていたものだ。


 「わかった」


 「いいの?」


 「ああ。……もう覚悟は決めたからさ。だから、アザレア……も、オレのことは呼び捨てにしてくれ」

 

 改めて呼んでみると少し気恥しい。嬢をつけなくなっただけなのに、なんだか不思議だ。アザレアはというと、目を逸らして


 「……ルーク」


 と、小さな声でオレを呼んだ。顔が熱くなるのがわかる。

 

 「ちょっと恥ずかしいね?」


 「……そう、だな」


 なんだか気まずくてお互いに目を逸らしたまま部屋の前についた。


 「ルーク、今日は……ありがとう」


 「いや……アザレアが元気になってよかった」


 「…………」


 部屋に入ろうとしていたアザレアは、振り返るとオレに抱き着いた。


 「!!??」


 「また明日!」


 オレが驚いている間にアザレアは部屋へ入っていった。


 「それは……卑怯だろ……」


 顔を真っ赤にしながら去っていくアザレアを思い出して、オレも顔が熱くなった。



 


 アザレアと別れた後、あることを確かめるためにオレはエノクの部屋へ向かった。

 

 「エノク、オレだ」


 「ルーク?入っていいよ」


 エノクは机に座って何か作業をしている。多分、魔道具を作っているのだろう。

 

 「何か用?恋のお悩み?」


 「……まあ、そうだ」


 エノクは冗談めかして言うが、実際そうだ。


 「……マジ?」

 

 「ああ。オレとアザレアが恋仲になっても問題ないって言ってただろ?そのことにいて教えてくれ」


 「それはもちろんいいけど……いつの間に呼び捨てになったの?」


 「告白して、いい返事を貰ったんだ。それで、お互い呼び捨てにして、敬語は使わないことにしたんだ」


 エノクは頭を抑えながらもう片手の手のひらをこちらに向ける。

 

 「待って、ついていけてないんだけど、君達はもう付き合ってるの?」


 「ああ」


 改めて聞かれると少し照れる。オレの答えにエノクはしばらく固まった。


 「そっ…………か。おめでとう」


 「ありがとう……ってそれだけか?」


 絶対に揶揄われると思っていたが、そんなことはなかった。


 「そりゃあ根掘り葉掘り聞きたいところだけど、今はそれどころではないからね」


 エノクが真剣な表情でこちらへ向き直る。

 

 「さて、例の件についてだね。君達が結ばれても問題ない理由、それはね……」


 「…………」


 エノクが真剣な表情のまま、目を閉じる。オレは思わず生唾を飲む。死してゆっくりと、エノクが口を開いた。

 

 「今は秘密」

 

 「なんでだよ!」


 勿体ぶったくせに秘密といわれて、オレは思わず声を上げる。エノクは大げさに首を振ると、

 

 「考えてもごらんよ。末代まで罪人とされる獣人と、上位貴族の令嬢が結ばれる方法なんて、君は思いつく?」


 と言った。確かに、そんな方法はオレにはわからない。というか、わかる奴なんていないだろう。だからこそ、今オレはエノクに聞いているのだから。


「とにかく、それくらいとんでもない話なんだ。明日決戦ってタイミングで話すにはちょっと重すぎると思わない?」


 「それは……確かにそう、か?」

 

 「そうなんだよ。だから、全部終わってからにしよう。凱旋したその後、君に秘密を明かそう」

  

 「わかったよ。……というか、勝つ前提なんだな」

 

 「当然だよ。君とエーシュ嬢の結婚式を見届けるまでくたばる気は毛頭ないからね」

 

 「結婚式って……気が早すぎるだろ」

 

 「さあ、それはどうだろうね?君達のスピード感なら案外そうでもないかもしれないよ?」


 エノクが楽しげに笑う。さすがに気が早すぎると思うが、そんな未来を否定はしたくなくて、誤魔化すことにした。


 「……とにかく、勝った後教えてくれるんだよな?」


 「もちろん。ヘレルの名に誓おうか?」


 「そこまでしなくていい。信じてるからな」


 「……そっか」


 やや遠くを見るような目で、エノクは小さく答えた。なにはともあれ、これで目的は果たせた。

 

 「じゃあオレは部屋に戻る」


 「うん、お休み。夜更かししないようにね」


 「わかってるよ」

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