79話 最悪の予測
「では、ここで決めた内容をこの場にいない人に展開してください。その後、第1陣は魔物が来るまで現場で待機を。それ以外は解散してください」
エノクの言葉とともに、傭兵たちが部屋を出ていく。そうして残ったのが討伐チームだけになると、エノクは大きなため息を吐いた。
「はぁー……疲れた……」
「お疲れ様、エノク。任せきりですまないな」
殿下がエノクに労いの言葉をかける。
「大丈夫だよ、ヘレル領の話だからね、これも伯爵代理の仕事さ。とりあえずこれで父上が来るまではもつはずだ。……にしても、ガブリエル嬢には助けられたよ。傭兵に立候補されたらどう断ろうか悩んでたんだよね」
「当然だ。オレのフィアンセなのだからな」
何故か自慢げな殿下はさておき、何を助けられたのだろうか?
「ん?ああ、今回の騒動の原因は恐らく魔族なんだよ」
オレが理解していないことを察したのか、オレの顔を見たエノクが軽い口調でそういった。
「な……」
「あの場で魔族の事を話すわけにも行かなかったからね。メンバーがこの4人なのも、魔族のことを知っているからっていうのも一つの理由なんだ。あとは本当に街の防衛との兼ね合いね」
「そういう、ことか……」
魔族について知っていることが大前提となるならば、この4人がメンバーなのも納得だ。
「魔族について、お二人はなにかご存知なのですか?」
エーシュ嬢が疑問を述べる。確かに、敵が魔族であると予想しているのなら、その魔族について何か知っていてもおかしくはない。
「魔族の名前は……僕の予想が間違っていなければベルゼブブ。暴食の悪鬼と呼ばれる、恐ろしい魔族です。まだ不完全な状態の魔族が今、完全に復活するために人々を喰らい、力の糧としようとしている……と考えています」
「人を……」
エーシュ嬢が青ざめる。
「そんな魔族ですから、ショッキングな光景を見ることになるかもしれません。今なら、行くのをやめられますよ」
冗談を言うような調子でエノクはそう言った。しかし、真剣な表情でエーシュ嬢は首を横に振る。
「いいえ、やめたりなんてしません。私の力が、必要なのですよね」
「はい。エーシュ嬢が居てくだされば、多少の無理ができるようになる。それは魔族との戦いを大きく有利にするでしょう」
「ならば行かせてください。必ずお役に立ちます」
エノクの言葉を聞いたアザレア嬢は、力強く言い切った。
「ありがとうございます、エーシュ嬢。ルークは大丈夫?」
「ああ」
オレが迷わず答えたことに驚いたのか、エノクは小さく目を見開いた。だが、すぐにもとの表情に戻ると、小さく頷いた。
「……そっか。ありがとう」