60話 慌ただしい朝
「ルーク、無事……か……!!!!????」
気が付いたらオレも寝てしまっていたらしい。ドアが勢いよく開く音で目を覚ますと、ディオンが口を開けたまま固まっている。
「どうした、ディオン」
「おま……それは一体どういう……」
ディオンがオレの胸の辺りを指差している。ふと下を見ると、アザレア嬢が眠っていた。そういえば、アザレア嬢に抱きつかれたままだった。
「あぁ、昨日ちょっと色々あって」
「色々ってなんだよ!?」
「どうしたの、ディオン?」
エノクが扉の向こうから顔を見せる。そしてオレの方を見ると大きく目を見開いた。次の瞬間にはいつもの表情に戻ったが、どう見ても口角が上がっている。
「エーシュ嬢が出てこないなぁと思ってたけど……まさか、ふふ、こんなことになっているなんてね」
「これはいくらなんでも問題でしょう!?まだ婚約もしていない二人が、こんな……!!」
「……?何の話だ?」
ディオンは顔を真っ赤にしながらエノクに詰め寄った。エノクはどう見ても面白がっている。
「ううん……アディ、どうした……の……」
アザレア嬢が目を覚ましたようだ。暫くもぞもぞと動くと、顔を上げた。
「…………キャッ!?」
アザレア嬢は叫び声を上げると、勢いよくオレから離れた。
「おはようございます、アザレア嬢」
「えっ、おはよう、ルークくん……???」
アザレア嬢は寝ぼけているのか不思議そうな顔をしている。
「よく眠れましたか?」
「……うん、おかげさまで」
アザレア嬢は小さく微笑んだ。
「エノク様、俺がおかしいんでしょうか」
「いや、流石に僕もこれは予想外というか……」
「キャア!? お二人共いらしたのですか!?」
アザレア嬢はどうやら二人に気付いていなかったらしい。ディオンは呆れたような表情をし、エノクは貼り付けた笑顔を浮かべた。
「はい。殿下たちが戻ったんですけど、結局メトフェスは捕まえられなかったので一旦解散しようかと。授業もありますからね」
昨日の事件は無かったことにされている。つまり、今日も当たり前のように授業があるわけだ。
「そっそういうことなのですね!確かに、私も一度自室に戻りたいと思っておりました!!」
「それはちょうど良かった。ルアハ、エーシュ嬢のエスコートをお願いしてもいい?」
「おっけ〜任せて」
「「「!?」」」
ルアハの声が部屋の中から聞こえた。エノク以外の全員が目を見開く。1人落ち着いていたエノクが指を弾くと、ルアハの姿が現れた。
「一体いつのまに……!?」
「光魔法の応用だよ。凄く簡単に姿が見えなくるんだ。これに合わせて風魔法で音も消せば、この通り」
「ドッキリし放題ってわけだね〜」
「これを使ってエーシュ嬢の姿を隠しますね。ルアハと一緒にいることで目立つのは面倒でしょうから」
「ありがとうございます、エノク様。ですが、ルアハ様に送っていただくのは……ご迷惑ではないでしょうか?」
「気にしないでください。いつメトフェスが現れるかわかりませんから、基本的には必ず僕達の誰かと行動してください。ルアハが嫌なら殿下に頼みましょうか?」
「いえ、そういうわけでは!!ではお言葉に甘えて……宜しくお願いします、ルアハ様」
「はいは〜い、レディの為なら喜んで」
「それでは皆様、また後ほど」
アザレア嬢はそういうと、ルアハと共に出ていった。
「じゃあ僕達も移動しようか。ディオン、悪いんだけど、ルークをおぶってくれる?」
「はい、お任せください」
ディオンがベッドの縁にしゃがみ込む。ディオンにおぶさろうとして、その時気付いた。体が、痛くない。
「……?どうした、ルーク」
「ああいや、体がもう全然痛くないんだ」
そう言ってオレは立ち上がってみせる。確かめるように体を動かしてみるが、痛みは全く無い。
「……ふうん?まぁ、治ったならよかった」
「そう……だな」
昨日の時点であれ程の痛みであれば、こんなすぐに治るのはおかしい。だが、今は全く痛みはない。……まぁエノクの言う通り、早く治ったならそれはいいことだろう。
「では戻りましょう」
ディオンの言葉を合図にオレたちは自室へと戻り、慌ただしくその日の準備をしたのだった。