58話 眩い炎
「ちょっと脱線しちゃったね。魔族による体の乗っ取りは、儀式をするか、本体がいる所に行きでもしない限りは起こらない。だからその辺の人達が魔物になったりすることはほぼないよ」
「ならサムソンはどうして……」
「恐らく儀式の方だな。メトフェスに生贄にされたのだろう。魔族の存在を知っているのはもはや3家門だけだからな」
「とはいえ僕達も儀式の方法は知らないのだけどね。メトフェスはどうやって知ったのやら。まぁ、既に魔族になってるのかもしれないね」
エノク達ですら知らない儀式。それをメトフェスが知っていたと言うことだろうか。……そういえば、変なことを聞かれたな。もしかすると関係があるかもしれない。
「……てんつばって何か関係があったりするのか?」
「「!!!!」」
エノクと殿下が目を見開く。
「そう。そういうことね」
「これは……想像以上に厄介だな」
「な、何なんだ?本当に関係があるのか!?」
エノクと殿下は顔を見合わせ、互いに深く悩むような素振りを見せる。
「うーん、説明が難しいんだけど……直接は関係ないよ」
「いずれ、必要になったら話そう」
「え〜?俺にも秘密なんですか?」
ルアハは知らなかったようで、抗議の声を上げる。
「ああ。すまないな」
「ま〜殿下がそう言うならこれ以上は聞かないでおきますよ」
以外にもルアハはあっさりと引き下がる。アザレア嬢も気になっているようだが、ルアハが引き下がったのを見て諦めたようだ。
「これから、私達はどうすればよいのでしょうか?」
アザレア嬢が不安気に声を上げる。
「これまで通り普通に生活してくれればいい。学園に魔物が現れる、なんてこともこれからは無いはずだから」
「なぜそう言えるんだ?」
「これだ」
そう言って殿下は手を広げた。眩い炎が手のひらの上で輝いている。上に投げるように手を動かすと、炎は頭上まで上がり、そして大きな輝きを放って爆ぜた。だが、不思議と熱さはなかった。
「これが、滅魔の炎なのですね……」
滅魔の炎。ミカエルに神が与えたとされ、魔物だけを焼き尽くすと言われている。実際に見るのは初めてだが、アザレア嬢が見惚れるのもわかるほど美しい炎だった。
「これで今学園にいる魔族は祓えたはずだ。今後は定期的にこれを行おう」
「ありがとうございます、殿下」
「よい。誰かのために使ってこそだからな」
殿下はそう言って頷いた。
「とりあえずこんなものだね〜。俺達はもう行くよ。兄上を追わないといけないからね〜」
ルアハと殿下とエノクが立ち上がる。
「オレも手伝いま……う……」
オレもついて行こうとして立ち上がろうすると、体に痛みが走った。
「ルークくん、ダメだよ、安静にしていて」
「そうそう。今日はしっかり休むこと。あ、僕はこの部屋の外にいるから、何かあったら呼んでね」
「ではな、2人共」
「まったね〜」
アザレア嬢以外の3人が部屋から出ていった。