48話 予想できたこと
「ルークか。おかえ……誰だ、そいつ」
出迎えたディオンが目を丸くする。
「サムソンだ」
「サムソン?……ってあのサムソンか!?」
「ああ、ちょっと色々あって」
「またこいつになにかされたのか!?クソ、やっぱあの時ぶっ殺しておけばよかったな……!!」
相変わらず血の気が多い。だがオレを心配してのことなのだろう。
「落ち着け、オレは何もされてない」
「じゃあ何があってこいつを背負ってんだよ!?」
「それはエノクがいるときにまとめて話そう。エノクはもう帰ってるか?」
「ああ、帰っているぞ。というか、パーティーに行ってすぐに帰ってきた」
「相変わらずだな……」
街で行われる庶民向けの祭りの他に、皇室主催のパーティーも開催されていた。主催側の皇太子はもちろん、エノク達生徒会のメンバーもそちらに参加していた。アザレア嬢はそちらへ参加せず、祭りに参加したというわけだ。
「呼んできてくれるか?」
「ああ」
オレはサムソンを床に下ろした。目覚める様子は特にない。エノクはすぐにやって来た。
「ごめん、おまた……誰?」
「サムソンだ」
「えっ、これが?」
「オレのことを知って……いや、敵視していたから間違いない」
「……そう」
エノクは床に横たわるサムソンを無表情のまま見下ろした。
「それで、何があったの?」
オレはエノクとディオンにアザレア嬢が攫われてからのことを話した。
「なるほどね。大体分かったよ」
エノクが小さく頷いた。
「まず、君が無事で良かった。エーシュ嬢にも怪我がなくてよかった」
エノクはそう言うと、オレに頭を下げた。
「そして……ごめん。こういう状況になるであろうことを、僕は予想していた」
「!?」
「僕や君に好意的な生徒会メンバーがパーティーに出席してて、エーシュ嬢と君は二人だけでお祭りに行く。手を出すなら絶好のチャンス……でしょ?君にヘアピンを渡したのはそういう理由。使う機会がないことを祈っていたけど……悪い予想は当たるものだね」
確かに、絶好のチャンスなのは間違いない。だが、オレには納得できないことがあった。
「……なんで、教えてくれなかったんだ?」
少し考えればわかることだし、アザレア嬢が攫われたのはオレが油断したせいだ。だから別にエノクは悪くない。でも教えてもらえていたなら、アザレア嬢にあんな思いをさせることはなかったかもしれない。……頭がぐちゃぐちゃだ。
「二人に、純粋にお祭りを楽しんでもらいたかったから。身分とかそういう面倒なこととか、余計なことは忘れてさ」
「……」
エノクは遠い目でそう言った。ぐちゃぐちゃな頭をなんとか整理して、オレは言葉を絞り出す。
「エノクの気遣いのおかげで、祭りは楽しめた。最後は残念だったけど、ちゃんと楽しかった。ありがとう。……でもオレは、こういうことに疎い。だから、これからは気を付けるべきことは教えてほしい」
「……うん、わかった。……今回は、本当にごめん。二人が無事で、本当に良かった」
エノクは小さく頷いた。飲み込めなかった感情がやっと飲み込めた気がした。