4話 遠くに見える街の明かり
ルークという名が与えられた。もともとオレには名前と呼べるようなものがなかった。おい、とか、お前、としか呼ばれたことがなかったからだ。それをエノクに伝えると、
「じゃあ君はこれからルークね」
と、まるで前から決めていたように言った。
「ルーク……」
不思議としっくりくる気がした。こんな感じでオレの名前はあっさりと決まった。
「あ、僕はエノクね。呼び捨てでいいよ」
呼び捨てでいい、とは言われたものの、オレと彼の関係を考えるとそう気安く呼ぶのはどうなのだろう。そんなことを考えていると、
「呼び捨てでいいよ〜?」
と、謎の圧を感じる笑顔で微笑んできた。
「仮にもアンタはオレの主人だろ」
「じゃあご主人様命令ね。エノクって呼んで」
絶対に譲るつもりはないらしい。
「……わかったよ。……エノク」
「よろしい」
エノクは満足気に微笑んだとき、扉を叩く音が聞こえた。
「サンドイッチをお持ち致しました」
「ありがとう、置いて行ってくれる?」
「かしこまりました」
女はテーブルにたくさんのサンドイッチと水を置くと、小さくお辞儀をして部屋から出ていった。
「これで足りそう?」
「こんなに食えねぇよ……」
「全部食べなくてもいいよ、食べれるだけ食べて」
そう言うとエノクは扉に向かって歩き始めた。
「じゃあ、僕は僕の部屋に戻るね。何か用があったら呼んで」
「わかった」
「じゃ、またね」
小さく手を振り、部屋を出ていった。
サンドイッチを手にとってみる。ハムとレタスが挟まれた。小さなサンドイッチだ。豪華なディナーは用意できないと言っていたが、オレにとってはこれでも十分すぎるほどだった。たくさんのサンドイッチがあったが、一つ食べただけで満足してしまった。残りはまた明日食べよう。
気付けば暗くなった窓の外を眺めると、遠くに街の明かりが見えた。本当なら今日もあの街の何処かにいたのだろうと思うと、不思議な気持ちになった。冷たい風がカーテンを揺らした。肌寒かったから、窓を閉じた。