3話 少年は彼の手を取った
目を覚ますと、あたりは茜色に変わっていた。窓からは優しく光が差し込み、カーテンが小さく揺れていた。しばらくの間揺れるカーテンを眺めていた。
「……腹減った」
そういえば今日は何も食べていない。部屋の中を見渡しても食べられそうなものはなにもない。少しでも腹が減らないように、縮こまっていようとした時、外から扉を叩く音が聞こえた。
「入ってもいい?」
エノクの声だ。オレに聞いているのだろうか。悩んでいると、扉が少しだけ開く。
「まだ寝てるのかな……?」
覗き込む目と目が合う。
「おはよう、ご飯持ってきたよ」
柔らかいパンを差し出すエノク。受け取るべきか悩んでいると、微笑みながら無言の圧をかけてくる。絶対に受け取らせるつもりのようだ……。パンを齧ってみる。少しだけ甘い味がして、思わずもう一度齧り付く。気が付いたらすぐに食べ終わってしまった。
「はい、水」
今度は迷わず受け取って、水を飲み干した。
「もっといる?」
「もういい」
誘惑に負けたことに悔しさを感じたので、強がろうとしたのだが……盛大に腹が鳴ってしまう。
「ふふっ」
「笑うな……」
消えてしまいたいほど恥ずかしいが、ここは既に部屋の隅。逃げ場などどこにもない。顔を背けていると、エノクが扉を叩き、外へ声をかけた。女が扉を開け、小さくお辞儀をする。
「サンドイッチとお水持ってきて。多めによろしくね」
かしこまりました、とだけ言うと女は扉を締めた。
「いらないって言っただろ」
「そうは見えないけど」
「オレの身に余るものだ。お前のくれるものは、全部」
吐き捨てるようにそう言うと、エノクは酷く悲しそうな顔をした。
「そんなことはないよ……。毎日お腹いっぱいになるまでご飯が食べられて、明日になんの不安も覚えずに生きること。誰だってそうであるべきだよ」
「それは『人間』に与えられるものだろ。オレは『獣人』だ。お前達とは違う」
「僕には、君も人間にしか見えないよ」
「……!!」
エノクが真っ直ぐに俺の目を見てそう言った。雷に打たれたような、そんな感覚がした。
「そもそもさ、わざわざ自分からつらい思いをする必要なんてなくない?」
エノクは部屋の真ん中に立ち、手を広げる。
「この部屋も、この部屋にあるものも君のものだ。君が、人として生きていくためのものだ。君はこれらを受け取っていいんだ。どうか恐れないで。こんなに柔らかいベッドの、何が君を傷付けるというの?」
彼は俺に近付くと、オレに手を差し伸べた。
オレはおずおずと、彼の手を取った。
まだ3000字程ですが既にちょっと後悔してることが
あまりにも無計画ですが改稿はしない方向で頑張ります