19話 特別メニュー
「やっほ、調子はいかが?」
あれから更に一週間が経った頃、ディオンとの手合わせが終わるとタイミングよくエノクがやってきた。
「エノク?どうしたんだ?」
「あと一週間で本番だからね、ルークの為に特別メニューを用意したんだ」
「特別メニュー?」
「うん、決闘では魔法も使っていいから、対処の練習をね」
「……魔法?」
一瞬、前線の様子を想像してしまう。
「魔物をふっ飛ばすような凄い魔法じゃないよ。そういう魔法は準備に時間がかかるからね。こういう感じの魔法だよ」
そう言ってエノクは手を振り下ろす。すると、光が地面に向けて飛んでいった。光の当たった小さな石が勢いよく飛んでいく。
「見ての通り大した威力じゃないから、できて魔物の気を引いたり、嫌がらせする程度かな。でも人間相手なら話は別。それなりに痛いから対処できるようにしないとね」
「対処と言っても、どうすればいいんだ?」
「魔法を使うときは絶対に予兆があるんだ。呪文を唱えたり、魔法陣を作ったり。さっきのは手を振ったよね?」
確かに、エノクが手を振り下ろすと同時に光が地面に向かって飛んだ。
「それを見極めて……あとは気合で避けるか、妨害すればいい。でも基本的に魔法はすぐ発動するから避けるしかないね」
「……気合で対処するしかないのか?」
「うん。魔法が使えるなら壁を作ればいいんだけど」
獣人であるオレは魔法を使うことができない。だからこそ、こういう対処法が重要になる。ディオンは魔法を使えないし、カインもあまり得意ではないらしい。だからこそエノクが直々に来てくれたのだろう。
「わかった。特別メニューを頼む」
「そうこなくちゃ」
訓練の内容はシンプルだ。オレは一定距離を走り抜ける。その間、エノクは光線を飛ばしまくるから、それに当たらないようにする、というものだ。光線に当たっても痛くないから、足を止めずに最後まで駆け抜けなければいけないらしい。
「なるべくわかりやすくするから動きを読んでね〜。それじゃあよーい、ドン!」
合図に合わせてオレは走り始める。エノクが手を払うように手を動かすと、前方から光が飛んできた。すかさず横に避け、足を止めずに走り続ける。エノクが次々と手を動かし、その動きに合わせて次々と光線が飛んでくる。最初はなんとか避けれていたが、ゴールに近付くにつれ苛烈になっていき……最終的に10回以上当たってしまった。
「はあ、どう、だった……?」
「難しいな……というか、大丈夫なのか、エノク?」
エノクが今にも死にそうな様子で息を切らしている。オレがゴールにたどり着くまで、なるべく身振りを大きくしていたから、そのせいだろうが……
「運動、不足、を、実感してるよ……ちょっと休憩させて……」
「あ、あぁ……」
その後、何回か行なったが、エノクが完全に力尽きたことでその日は終わりになった。