17話 彼なりの挽回
決闘代理人になると決めてからの流れはとても早かった。エノクが言っていたとおり、サムソンは決闘を受け入れ、1ヶ月後に行われることになった。なぜサムソンが決闘を受け入れたのかというと、決闘を受け入れなければ騎士団を追い出されるかららしい。上官からの命令を無視、更には家門に対する侮辱と、騎士としては致命的な問題を起こしてしまっている。そのため放っておけば勝手に破滅するだろうが、
「それじゃ手緩いよね?」
ということで、サムソンが決闘に勝てばこの件を水に流す、負ければ騎士団からの追放、という破格の条件で釣ったわけだ。これで無事、オレが仕返しする機会を得られた。あとはその日に向けて準備を進めるだけだ。と、言っても今できることは部屋で大人しくしているだけなのだが……どうやって時間を潰そうか考えていると、規則正しいノックの音が響いた。
「ルーク、入っていいか?」
ディオンの声だった。
「あぁ、どうぞ」
扉が開かれ、ディオンが部屋に入ってくる。ベッドの前で立ち止まると、オレに巻かれた包帯を見て眉を顰めると、オレと目を合わせた。
「……すまない」
「前にも謝ってくれただろ?ほんとに気にしてないって」
ディオンは更に眉を顰める。
「俺は、お前の能力を評価している。お前は強い。だが、相手の能力を……悪意を、過小評価していた。俺のミスだ」
「それはしょうがないだろ。ヘレル家にわざわざケンカを売るなんて、普通は考えないからな」
「……」
眉を顰めたまま視線を落とす。やはり納得が行かないらしい。多分、どんな言葉も彼を納得させることはできないのだろう。なので話題を変えることにした。
「それより、ありがとな、ディオンがオレを見つけてくれたんだろ?」
オレが部屋に戻っていないとアワンさんに聞いたディオンは、真っ先にサムソンのところへ向かったらしい。しらを切った上にオレを侮辱したことでブチ切れたディオンはアイツの胸ぐらを掴み、手を振り上げたところで青ざめたサムソンが居場所を吐いたのだとか。宥めるのに苦労した、とカインが言っていた。
「ミスを挽回するのは当然のことだ。礼を言われることじゃない」
「それでもオレは嬉しかったよ。だからありがとな」
「……」
目を逸らされてしまった。しかし、眉を顰めるのはやめたようだ。
「お前があのクズに勝てるように、俺も全力で協力する。だから、早く良くなれよ」
最後にもう一度目を合わせると、それだけ言い残して彼は部屋から出ていった。
カインは感情の起伏が激しめですが、元傭兵なため、いざという時は冷静です。カインも当然激怒していましたが、流石に貴族を殴るのはディオンの身が危ないので止めた訳ですね。
サムソンは平民に胸ぐらを掴まれたので、当然この件を問題にしようとしましたが、先に余計な事したのはお前だよな?(意訳)とエノクに言われ、言い返せなくなったようです。