12話 パーティーのお知らせ
「……というわけだ、わかったか、奴隷!?」
エノクの懸念通り問題は簡単には解決しなかった。相変わらずわざわざ練武場の隅に来ては文句を言ってくる。
「無視するな!奴隷の分際で!」
声を荒げるものの手は出してこない。奴隷は気に食わないが、ヘレル家に喧嘩を売る勇気はないらしい。
「なにしてんのー?」
エノクがやって来たようだ。普段は来ないのに珍しい。
「エノク……!殿……」
「あぁ、サムソン男爵子息殿、こんにちは。ルークになにか御用でしょうか?」
狼狽するサムソンとは真逆で、まるで意に介していないように微笑んだエノクが問う。
「い、いや、用という程のものでは……」
「そうですか。ではルークと話がありますので、外していただけますか?」
「しょ、承知しました……」
エノクの圧に負けたことにサムソンは、一瞬だけ恨めしげにオレを見ると去っていった。エノクがため息をつく。
「……あいつが、例のめんどくさいやつね」
「あぁ、助かったよ、エノク」
「どういたしまして」
軽く礼を伝えると、本題に入る。
「で、ここにはどうして?普段は来ないだろ?」
「ちょっとお知らせがあってね。カインとディオンは?」
「今は休憩中でどっかに行ってる」
休憩中で一人の時に限ってサムソンは現れて文句を言ってくる。
「そっか。じゃあ揃うまでここで待ってるよ」
それを察してか、単なる気まぐれか、エノクは段差に座り込んだ。
しばらくして、カインとディオンが戻ってきた。
「エノク様!珍しいですね!どうされたんですか!?」
「相変わらず元気そうだね、カイン。ちょっと皆に伝えておきたいことがあってね」
「ほう?何でしょうか?」
「実は皇太子の誕生日パーティーの出席しなきゃいけなくなったんだ」
ため息を吐きながらエノクが言う。とても面倒そうだ。
「誕生日パーティー……ですか?いつも面倒だから仮病で断っている?」
「そ。歳の近い令息令嬢と仲良くなりたいから来てほしいんだってさ」
軽く流しているが、皇太子のパーティーを仮病で欠席って、なかなかまずいことをしていないか?
「ほほー?皇太子ってエノク様と同い年ですよね?随分可愛らしいことを言うんですね?」
だがカインはまるで気にしていない。仮病で不参加なのはいつものことのようだ。
「どうしても僕に来てほしいみたいだね。皇室のパーティーをめんどくさがって行かないのなんて僕くらいだし」
「そういうことですか。どうして今回は行く気になったんです?」
「ほぼ名指しだからね。なら受けて立ってやろうと思ってさ」
「なるほど。お覚悟を決めたのですね!!!」
まるで戦いにでも行くような口ぶりだ。
「そういうわけで大体1週間くらい家を空けるから、その間ルークのことを宜しくね」
「かしこまりました!!オレにお任せください!!!」
「多分、僕がいない間にアレが手を出してくると思うから、ルークはなるべく一人にならないようにね。カインかディオン、最悪アワンと一緒に行動すること」
「そこまで警戒しなくてもいいんじゃないか?」
オレにアイツが直接手を出せるとは思えない。だがエノクは
「僕と父上はもちろん、護衛として騎士団長も家を空ける事になる。見習い騎士が動くには絶好のチャンスだ、用心しとくに越したことはないよ」
と、あくまでも譲る気はないらしい。
「……わかったよ」
しょうがないので、オレは渋々了承したのだった。
前話に突っかかってくるやつが見習い騎士だということを入れるの完全に忘れてました。