107話 世界を変えるために
107話 世界を変えるために
悪意を持った誰かが、私腹を肥やす、ただそれだけのためにウリエルは滅んだ。冤罪を押し付けられ、守り続けていた人々に恨まれたウリエルは、獣人たちは何を思ったのだろう。
「今の今まで獣人たちが罪人とされ続けてきたのは、彼らに非はないと証明することができなかったからだ。人々は目に見える敵を求め、ウリエルは彼らを鎮めるために犠牲となった。しかしそれでも人々の怒りは収まらなかった。そうして彼らを鎮めるために、獣人たちは罪人となった。……ひどい話だよね」
ありもしない罪のために、獣人たちは奴隷となった。そしてオレも奴隷として生まれることになった。……そんな必要なんてなかったのに。
「もしも、そんな冤罪なんてなかったなら、オレはどうなっていたのかな……」
貴族として生まれて、両親に愛されて育って、普通に学校に通って、普通の友人としてエノク達に出会って。……やっぱりアザレアを好きになるんだろうか。
「さあね。考えるだけ無駄だよ。そうはならなかったんだから」
切り捨てるようなそんな冷たい言い方だった。
「……そうだな」
けれど、その通りだ。過去は変わらない。変えられない。オレが奴隷として生まれたことも、獣人たちが冤罪を受けたことも変わらない。だが、これからは違う。もう罪におびえる必要なんてない。だってオレは罪人なんかじゃない。
「エノク、オレは……どうすれば貴族として認められる?」
「簡単さ。天啓の剣っていう宝物が皇宮にあってね。天使の権能を持つ人間がそれに触ると光るんだ。五家の血筋であるなら一発で証明できるというわけだね。今回の件で褒賞を貰えることになってるから、君が天啓の剣へ挑戦する権利を求めるよ」
「だが、それだと冤罪の方でなにか言われないか?」
「それならネフィリムの存在を明かそう。無罪を証明する必要なんてない。冤罪であった可能性を示せればいいんだ。だってもともとの判決が相当な無理を押し通しているのだからね。きっと今なら人々も耳を傾けてくれるはずさ」
「……悪いな。お前に頼りっきりだ」
初めて出会った時からずっと、助けられてばかりだった。
「気にする必要はないよ。もともとこれは僕の自己満足だったんだ」
「獣人の冤罪を晴らすことか?」
「気づいてた?」
「思うところがあるんだろうなってのは、なんとなくな。……ああ」
その時、ようやく気づいた。
「そうか。オレは、そのために必要だったんだな」
獣人の罪の象徴。贖罪のために滅んだ一族の生き残り。冤罪を晴らすための旗印。それが、オレの役目だったんだ。
「そういうこと。幻滅した?」
「……いいや。感謝してる」
だってこれは、オレのやりたいことでもある。オレ一人では、見つけることもできなかったことだ。
「エノク、力を貸して欲しい。……世界を変えるために」
オレは手を差し出した。エノクは笑う。
「ああ、もちろん!」
差し出した手は、力強く握り返された。