102話 負ける深慮
部屋を出るとアザレアが廊下を歩いていた。どうやら何かを探しているようだ。
「アザレア?」
「ルーク!よかった……」
アザレアはあからさまに安堵した表情を見せる。大体察する。
「迷ったのか?」
「うん……。ディオンさんの部屋を探していたのだけど」
「惜しいな。ディオンの部屋ならここだ」
今出たばかりの扉を指さすと、アザレアが固まった。
「…………けっこう頑張ったと思わない?」
普段の絶望的な方向音痴っぷりを考えれば、確かに近い場所まで来れてはいるかもしれない……。
「そ……うだな」
なんとか肯定の言葉を絞り出した。
「ディオンさんの部屋にいたんだよね?どうだった?」
「元気そうだったよ。さっき飯食いに行った」
「目を覚ましたのね。……よかった」
オレの言葉に安堵した様子を見せる。応急処置をしたのだから、経過が気になるのは当然か。
「会いに行くか?食堂まで案内するよ」
「ううん、大丈夫。お食事の邪魔をしては悪いから」
ディオンあら別に気にしないとは思うが……。まぁそれならいいか。
「そうか。なら部屋に送ろうか?」
「それなら、もしよかったら医務室に連れて行ってほしいな。傭兵さんたちの看病がしたいんだ」
「わかった」
アザレアと共に医務室へ向かう。……向かおうとして、気付いた。妙に見られている。特に傭兵たちが多い。学園ではもはや周りも慣れたものだったが、ここではやはり違うということだろう。……アザレアに飛び火する前に早く送ってしまおう。そうして少し速足で医務室に向かった。
「ありがとう。ルークはこれからどうするの?」
「騎士団とはあんまり関係がよくないんだ。だから部屋でおとなしくしてるつもりだ」
屋敷の人手不足解消のために、負傷した傭兵や避難民の面倒は騎士団が見ることになった。これで屋敷の使用人たちは安心して貴賓への対応ができるというわけだ。
「……私、何か言われても気にしないよ。だからル―クと一緒にいたい」
オレの考えはあっさりと見透かされてしまったようだ。騎士団との関係はただの建前で、アザレアの風評を考えれば一緒にいない方がいいはず。
「……わかった」
という深慮は上目遣いにあっさりと敗北した。思えばアザレアからのお願いを断れた記憶がない。
「よかった!」
表情がぱっと笑顔に変わる。アザレアはオレに手を握ると、医務室に引っ張った。その後、アザレアと一緒に医者の作業を手伝った。医者からはあまりいい表情をされなかったものの、人手は欲しかったようで、文句まではいわれなかった。