101話 消えた傷痕
101話
次の朝、ようやくヘレル家の騎士団が到着した。人々の捜索や支援などは騎士団が引き継ぐことになった。協力しようとしたがいい顔をされなかったため、しばらくの間屋敷で過ごすことになった。何をするか悩みながら廊下を歩いていると、ディオンを看病していたはずのアワンさんとすれ違った。
「アワンさん、ディオンの様子はどうですか?」
「彼なら先ほど目を覚ましましたよ」
「! 本当ですか?」
「ええ。元気そうですから、。会ってきてはどうです?」
「そうします!」
アワンさんを見送り、ディオンの部屋の扉をノックする。
「ディオン、オレだ」
「ルークか。入っていいぞ」
血まみれのディオンの姿が一瞬だけ思い浮かぶ。振り払うように小さく首を振り扉を上げると、そこには腕立てをしているディオンがいた。思っていたよりも元気そうというか、普段と何ら変わりない姿にあっけを取られる。
「そんなに動いて大丈夫なのか?」
「ああ。なぜか知らんが前より体が軽い」
そう言いながらディオンは腕立てをやめると立ち上がった。
「アワンさんから大体話は聞いた。……少なくとも、俺の知り合いに犠牲者はいないとな」
「ああ。ディオンが逃がした傭兵たちも無事だ」
「そうか」
相変わらず仏頂面だが若干の安堵が見える。
「ツフェイに考えなしに飛び込むなって言ってたくせに、何やってんだよ」
「あの場でアレに対応できるのが俺しかいなかった。それだけの話だ」
理屈はわかるが気持ちは別だ。文句の一つも言いたくなる。
「そうかもしれないけどさ……。心配したんだからな」
「まだ死ぬ気はないから安心しろ。メーティアを残しては逝けない」
「……そうかよ。まぁ元気そうで安心したよ」
「そうだルーク、そのことなんだが。俺はあの魔物と戦ってる最中に腕を折られた」
そう言ってディオンは腕を振って見せる。とても折れているようには見えない。
「だがこの通り、痛みを感じるどころか調子がいい。おかしいだろ?」
ディオンは特に怪我の治りが異常に速いとか、そういう体質ではないはずだ。いくらなんでも、腕が折れるほどの痛みを間違えるはずはないだろう。折れはしなくとも、痕くらいは残るはず。しかしそういうのも見当たらない。それどころか、普段の訓練で付いた細かい傷なんかも見当たらない。
「……確かに変だな?」
「だよな。何か心当たりはないか?」
そう聞かれても特に思い当たる節はない。
「死にかけて特殊能力に目覚めたとか?」
「そんな都合のいい話があってたまるか」
結局原因はわかるはずもなく、ディオンが飯を食うといって部屋を出て行ったので、オレもその場を後にした。