100話 大食らいの巨人
赤い信号弾が上がった後、どうすべきか迷っていたんだ。おとなしく屋敷に戻るべきか、それとも信号弾のもとへ向かうべきか?だが流石に危険だとディオンから止められたのでな、お前たちを探すことにしたんだ。しかし、この広い街の中で当てもなく探すのは無理がある。そう思っていたんだが……。ちょうどよく上位指令の信号弾が上がったじゃないか。俺はお前たちと合流するために信号弾の発射地点へ向かったのだ。しかしその場にお前たちおらず、代わりに首のない巨大な獣の落ちていた。悩むまでもなく魔族だろうな。俺は死体を処理するために滅魔の炎を使ったのだ。予想通りよく燃えたとも。そのまま焼き尽くそうとしたのだがな、突然別の魔族が現れたんだ。俺達には目もくれず、魔族は燃え盛る死体を食い始めた。突然現れた魔族はもともとは3mほどだったんだが、死体を食い尽くすころには5mほどにまで大きくなっていた。もちろん、死体を食っている間に攻撃を仕掛けたとも。しかし全く効かないじゃないか。潔く退却しようとしたが、あの巨体であの速さだ。すぐに追いつかれてしまってな。ディオンが応戦したんだ。おかげで傭兵たちの退避させることはできたが……。魔族との力の差は歴然でな。あとは、お前たちの知るとおりだ。
「……共食い、ねぇ」
殿下が魔族と遭遇した時のことを語り終えると、エノクは小さくつぶやいた。
「うむ。俺のことなど気にも留めなかった」
「とても食欲旺盛ということだね。肉の焼けた匂いに惹かれて来たのかな」
「その可能性はあるな」
冗談めかしたエノクの言葉に、殿下は真剣に頷いた。
「それなら、これからあの魔族のことはネフィリムと呼ぼうか」
「ネフィリム?」
「大食らいの巨人のことだよ。ぴったりでしょ?」
「……そうだな」
「共食いしたネフィリムを焼いても現れなかったところを見るに、あれで最後と考えていいだろう」
「そうだといいけど。じゃあ注意喚起して救助再開かな」
エノクは人を食う獣……ネフィリムのことを傭兵たちに注意を伝えた。二本足で立ち耳と尻尾があるため獣人に似ているが魔物であること。呼び声が聞こえても安易には近付かず、様子を見ること。万が一遭遇したら一目散に逃げること。可能であれば信号弾を使うこと。……そして最後に、恐れるものは参加しなくてもよい、ということも。結局、参加者は最初の半分以下になった。ネフィリムを恐れたからというのもあるが、そもそも最初より人が減ったせいだった。
それから夜になるまで逃げ遅れた人を探して回ったが、見つけることは出来なかった。同時に、殿下の予想通りネフィリムと遭遇することもなかった。