10話 できることから始めよう
「ほんっっっとーにすまん!!!!」
練武場の隅に着いた途端、カインは凄まじい勢いで頭を下げた。
「まさか倒れるほど無茶してるなんて思わなかったんだ……!!なのにオレは能天気にオマエが走るさまを眺めていた……!!!オレは指導者失格だぁ!!!」
土下座しながら号泣する様はなかなかに異様な光景で、その熱量に思わず引いてしまう。
「お、オレも無茶したから……」
「いーや!!これはオレの責任だ!!!無茶をさせないのも指導者の役目でしょ。とエノク様にも言われたが全くもってその通り!!!オレは、オレはぁ……!!」
「見ての通り元気だから!なんともないから!!だから、オレに剣を教えてほしい……です」
彼の砕けた雰囲気に流されていたが、オレは彼に教えを請う立場だ。礼は弁えるべきだ。
「ホントか……?ホントに、オレでいいのか……!?」
「はい、お願いします」
涙目で不安そうにオレを見る彼に、頷きながら答えると、
「うおおおおお!!!!絶対にオマエを誰にも負けないようにしてやるからなああああ!!!!!」
更に大号泣してしまった……
「……師匠、準備できました」
カインの大号泣をよそに現れたディオンが淡々と報告する。若干引いてる気がする。
「おぉ、グスッ、おつかれ、ディオン」
のそりとカインが立ち上がる。
「そうだディオン、この前はありがとな!見ての通り、お前のおかげでルークに後遺症はないそうだぜ!!」
「礼を言われることなど、何も」
カインの言葉にディオンは無愛想に答える。オレのことなど眼中になさそうだが、なにかしてくれたのだろうか?
「ディオンのおかげ……ですか?」
「おう、オマエ倒れたあと応急手当てをしたのはディオンなんだ!!オレが医者を呼びに行ってる間にしてくれててな?完璧な処置だって医者も驚いてたんだぜ!!!」
「そうだったのか。ありがとう、ディオン」
「……当然のことをしたまでだ」
顔を逸しながらディオンは答える。少し耳が赤くなっている気がした。
「うし、じゃあ始めっか!!」
カインの掛け声と共に走り始める。無茶はしないように、できることから始めよう。
祝、1万文字
カインは元からこういうキャラを想定していましたが、前回登場時がちょっと圧が弱めだったで強めておきました。