思うこと
7話です。大城の出番
シフトを交代したので、今日は少し早く出勤した。ちょっと高い居酒屋のアルバイト。仕事中にも関わらず、店長は3杯目のビールを飲んでいた。週に2回ほど、小遣い稼ぎに始めたバイトだが、気前のいいお客さんと穏やかなバイト仲間が多く、アットホームな職場だ。
「駿くーん、ハイボール2ね」
店内の方から声が聞こえてきた。大きく返事をして、すぐに作り始める。
(ほんまにこの量で良かったっけ?めっちゃ少なない?)
冷蔵庫でキンキンに冷えていたグラスが、自分の手の温度で少しづつ溶けて、ぬるくなっていく。
自分の行動には、いつも自信が持てない。自分の発言が間違えていないか、自分の行動が人を不快にさせていないか、そんなことばかり気にしてしまう。
だからこそ、大井レイを羨ましく思う。
大井はクールで、冷静な性格だ。会話の発言に、そうだと思わせる説得力がある。いい意味で、周りを気にしていないところも良い。この間映画の話をしたときもそうだった。
「俺は恋愛を異性・同性で分ける必要なんてないと思う」
レイは軽く笑ったので、思わず真剣に話しすぎたかと焦ったが、こう言った。
「確かに、そう捉えられる人が多ければ良さそうに見えるけど、人は必ず性別という先入観を持って人を好きになる。特別視しないというのは、難しい」
「ちょっと駿くん、急いで」
年上の女の先輩が今度は目の前に来て、急かしてきた。今日は忙しくて、先輩のマスカラが目の下にジワジワ落ちはじめていた。
「…何?」
「はいはいどうぞ!」
笑顔に戻って、グラスを置き渡す。先輩は目を逸らして、すぐにホールへと戻って行った。
―
「何それ、その人あんたのこと好きなん?」
缶チューハイを飲みながらむせてしまった。今日は看護師として働く姉の、久々の晩酌に付き合っていた。
「なんでそうなるねん」
「そんなんあんた、男に愛について語るとかあるか?随分ロマンチストというかなんというか」
姉は随分酔っ払っていて、爆笑モードに入っている。さっき駿がコンビニで買ってきたさきいかをツマみ始めた。さきいかは姉がよく好むツマミで、例えワインを飲んでいようと姉はそれを食べる。
この間の映画の話をした。愛のジャンル分けについてどう思うか、レイに話したことを言ってみたところ、こうなった。
姉はまさか男同士で映画を見に行っているとは思わなかったのか、女子との話内容として聞いているようだ。その話がこっちの持論であることは、テイが悪いので言わないでおいた。
姉は笑いながら、リビングのテレビでYouTubeを見始めた。
勝手に再生を止める。
「好きとかじゃなくてさ、姉ちゃんは単純にどう思うん?」
なんか今日は真面目やなとまた笑うと、グラスに残っていたワインを飲み干した。
「女の子を好きになったことないから、私にはまだ分からん」