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センチメンタル 起

 過ごしやすい10月入りたての河川敷には、人が多い。夜になってくると大抵の人が家へ帰っていくが、熱心な野球少年たちは未だ野球をしている。野球のルールなど全くもって知らないが、薄暗い中ででぼーっとボールが行き交う様を見るのが好きだ。


 こうして見ていると、高校時代を思い出す。野球ではなく、バスケをしていた。キャプテンや副キャプテンでもなく、俺はただの平部員だった。思い出しておいて、立派な思い出などは何も無い。そもそも真面目に部活に行ったのも数回しかないような気がする。


 引退試合で俺は、替えの効く3年だった。ファウルで足を挫いたとき、意地でもプレー続けるなんて考えは、少しもなかった。次期エースになるような1年と交代に最後の退場をすると、3年間で1番清々しい気分になった。こんな俺だが、部員間で除け者にされていた訳でもなく、緩く程よくやっていた。同期とは未だに連絡を取る仲である。



 あの時やる気満載だったキャプテンは、大学でフットサルに転向して程よく遊んで、立派な企業に就職してバリバリ働き始めている。


 久々にインスタを見てみると相変わらず、日々の反省や周りへの感謝などを恥ずかしげもなく世界に公開している。



「やっぱくせーな」



 こういう時、現在いまの自分の姿が浮き彫りになる。外に恥ずかしく見えているのは俺の方だろう。


 学部4年の時、就活をサボったので仕方なく大学院へ行った。幸い頭の出来はそこそこ良かったので、なんとかなってしまった。

 しかしこのまま自分が真面目な就活をするビジョンも見えないから、この先の人生沈んでいくばかりなんだろうと思う。それでも…きっとなんとかなる。


 そうは言っても“クサい奴ら”に見劣りするのは確かである。なんなら実際に臭い。3日風呂に入っていないからだ。



 河川敷で自虐モードの結城悠斗は、本来ポジティブシンカーである。ポジティブシンキングの持ち主、ポジティブシンカー。楽観主義でもある。



「よしやるか!」


 腰を上げて、グラウンドから離れて歩く。


 目の前には腰より高い草が生い茂っていた。グラウンドの付近は公園だから整備されているが、この辺りはまるで人の手が入っていない。


「どけどけー」


 草をかき分けて歩く。秋に差し掛かってはいるものの虫はまだまだ多く、退けた草の根元から鈴虫のような声が聞こえる。


 川の傍には石が転がっていて、草むらを抜けた途端涼しい風が吹いた。夏も、これで終わり。


 ひとしきり走り回って少し汗ばんできた。3日風呂に入っていないと流石に不快感がある。おまけに途中で何か硬いものを踏んだので、家に帰ることにする。





「…こんばんは」


 上を見あげると、そこには冷めた顔の笹木祐奈ささきゆうなが居た。


「マジに近づかない方がいいよ。俺風呂入ってないから」


 さっきその辺で拾ったビニール袋を敷いて横に座らせた。


 笹木祐奈は高校大学が同じ2個下の後輩で、なんだかんだ5年くらいの付き合いになる。たまにすれ違いざまに会釈する程度の間柄だったが、大学に入ってから1度一緒に酒を飲んで、軽く話す仲になった。


「結城さんってよくぼーっとしてますよね」


 長い黒髪を風になびかせて、彼女はこちらを覗き込む。水色のロングワンピースを来て、三角座りをしている。


(マズった)


 夏の終わりの夜というのは、それだけで良い雰囲気にさせてしまう。後ろの道は、珍しく人通りも少ない。



「バスケ部の時も、体調悪いとか言ってずっと入口の近くで試合見てて絶対サボってるなって思ってました」



「笹木もずっと座ってたよな。マネージャーのくせに」



「……さっき、何してたんですか。あんなに走り回ってるの初めて見た」


 どうやら一部始終を見られていたらしく、驚かれているようだ、無理もない。フラグが潰えたので却って良かった気もした。というか、都合の悪い言葉も掻き消された気がする。



「探し物をしてたんだ」


「何を?」


 いくらさっきからそよ風が吹いているとは言え、先程全力で草むらを走り回ったので暑い。何故1人で走っていたのか、そんたことを聞かれても困る。自分の行動には深い意味なんかはなくて、狂ったみたいに走りたくなった、それだけだ。


 強いて河原を選んだ理由を言うならば…



「宝物」


「なんかセンチメンタル?気持ちわるー」



 笹木は心底呆れたような顔をしていた。

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