大城駿
朝気分が悪すぎて忘れていたが、思えば1食も食べていない。空きっ腹に酒って良くなかったような気がする…なんて思った頃にはもう遅かった。
「出来上がってんなー」
駿が呆れた顔で見ている。飲み放題で、案外イケるかもなんて好きに飲んでいたら滅茶苦茶に酔った。
「すんません」
申し訳ない。心と体どっちもダメな時に酒って飲んじゃダメなんだな。吐きはしないけど本当に気持ち悪い。
「俺ん家車で10分くらいやからさ、姉ちゃん呼ぶわ。もう遅いし泊まっていき」
駿が電話して直ぐに、迎えの車が来た。
駿の姉の車に乗っているときにはもう既に酔いが覚め始めていた。
アルコールの分解は早い方なのかもしれないなどと考察していると助手席に座る駿とその姉が話始めた。
「あんたも家に泊める友達出来たんやな。姉ちゃんほんまに安心したわ」
「ちょ、黙ってや。友達はおるけど家に泊まったりはせんだけやし!」
「あんたが煩いねん。駿くん寝てるんやから静かにしぃ」
「心配せんでも姉ちゃん邪魔せえへんから、仲良くしいや」
「ホンマに黙って」
コテコテの関西弁に何故か安心感を覚えつつ、少し意外だなと思った。駿みたいな人間なら、人の家渡り歩いていて、人も泊めてそうなイメージだったんだけど。
駿の実家は大学に近いベッドタウンの、まさに閑静な住宅街にあった。
「ほら、着いたから起き」
昔から都会の人はマンションに住む、みたいな固定概念があったから、駿の家が2階建ての一軒家だと分かった時は少し驚いた。
しかし自分のアパートの近くも一軒家だらけだったと直ぐに思い出した。
汗をかいているからと風呂を勧められて、着替えまで用意してもらった。パンツも…全く至れり尽くせりだ。
風呂に入って、実家のことを思い出していた。俺の実家だって神戸のあたりだし、そんなに田舎でも無くどちらかと言うと都心にある。
しかし、なにかというと感じていた駿との“差”はたったこの風呂の存在だけで歴然としていた。
「サウナ…?」
浴室乾燥、送風、換気、その横に見慣れない文字があった。
サウナ…サウナ(芬: sauna)は、蒸し風呂とも称する蒸気浴・熱気浴の一種で、フィンランドが発祥とされる(wikiより)
じゃなくて、サウナって一般家庭の風呂についてるものなのか。そうでなくても脚を伸ばせるこのバスタブの大きさと、ビュッフェみたいに並ぶ様々なシャンプー、浴室テレビ…見始めるとキリがないこの違い。
風呂に上がったら大手家電メーカーのドライヤーと新品のパジャマが置かれていた。ドライヤーをした後はいつも猫毛で、加えてブリーチをしているからいつも髪が広がっているのに、今日は綺麗に落ち着いていた。おまけに洗面台に写る自分はやけに貧相で、不細工だった。
「俺と一緒の布団で寝ても大丈夫?」
どうやら客用布団が彼の母の寝ている部屋にあるらしく、どうしても出せないらしい。
何故かベッド横分割で寝ることを提案され、2人で丸まって寝転がった。
「いっこ聞きたかってんけどさ」
薄暗い部屋で駿がコソコソと言った。
「レイって神戸出身やのになんで関西弁じゃないん?」
「オヤが関東生まれで標準語だからさ」
「それでも学校の人らとか関西弁やろ?」
「…やっぱオヤの影響の方が大きいんだよ」
駿はあまり納得してないようだったが、そのまま言葉が途切れて、2人とも寝た。今日酒を飲んでいて良かった。眠くてよかった。ああ…酒を飲まなければここに居なかったんだっけ?
翌朝は駿のお母さんも起きていて、朝食を用意してくれた。
「ウチは好きなパン食べる方式なのよ」
と数種類のパン並んだ食卓に新たに目玉焼きを挟んだホカホカのイングリッシュマフィンを置いた。駿は冷蔵庫から冷や飯を取り出してチンし始めた。