大井レイ
「…やっぱりね」
朝起きて絶望した。
昨日川に入り始めた自分を客観的に見て何となく察してはいたが、どうやらまたあれがきたらしい。
起き抜けから、心臓辺りの恐らく心とかが入ってる部分に頭と脚と全部重りのような、比重重めの泥が入ってくる。起きたと言っても意識が起きただけで他が何も動かない。昨日ビール飲んだから余計ダルさがあるのかもしれない。
どうしても大学には行けないと思ったが、出席日数がそろそろ危ないのと、余裕ある単位数でも無かったので身体に鞭を打ってようやく家を出た。
大学まで、電車で1時間くらい。
家賃が安いからと郊外のアパートを借りたから無駄に遠い。この長さが、1人で考える時間を増やしてしまって仕方がない。でも、乗り換えるまでには切り替えないと。
大学行きの線に乗り換えて5駅くらいすると駿が乗ってくる。
「よっ!レイレイ」
俺をいつも変に呼ぶのは、大城駿で、1年の時からの友達だ。今1番つるんでるのはこいつだと思う。駿は明るくて友達思いで、なんで俺と毎日居るのか分からないくらい友達も居るような、いわゆる陽キャだ。見た目は、金髪でちゃんとセットされたマッシュだが好青年らしい可愛い顔立ちで、“良い方”の陽キャである。
「レイはまた髪染めたんか」
「一昨日染めたー。ブリーチしてシルバーとグラデに紫入れて」
「そんで女にモテたいんやろ」
他の陽キャ…というか半ばヤンキーっぽい奴のイジりは心底嫌いだが、こいつからのイジりは結構心地良い。
「別にモテたい訳じゃないですー
駿の金髪はモテなさそうだけど」
冗談めかしく言っていると、駅に着いた。
「今日って課題あったっけ?」
「今日は小テストかなー」
駿は、しまったというような顔をしている。
「仕方ないな」
「ほんまにー?レイやんはいっつも優しいな!ありがとう」
満面の笑みだ。
駿はおっちょこちょいなところがある。そこが人に好かれて、丁度いい欠点といったところだろうか。
「そういえば、昨日バイト先の店長飛んでバイト先無くなったわ」
「まじで?!そんなことある?」
バイト先の店長が飛んだなんて、ネットでしか見たことなかったけど、まさか自分の身近で起こるとは。自分のことのように目を丸くしている駿を横目に見ながら、大学までの道を真っ直ぐ歩く。それにしてもこいつオーバーリアクションだな。
「えーとそれならさ、今日はバイト無いんやろ?一緒に飲みに行こうや」
「飲みかー…」
「いいやん、こんだけ一緒におって何気に飲みいったことないやん?楽しいで!」
昨日河原で飲んだのが初めてだったから、いきなり飲みに行って楽しいとは思わなかったが少しくらい気持ちが晴れると良いと思い、行くことにした。
そういえば、あの先輩と連絡交換すらしてないけど、二度と会えないのかもな…